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西行辞典

件名: 西行辞典 第375号(180714)
2018/07/14
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      ◆◆◆◆  西行辞典  ◆◆◆◆
                        
                  vol・375(不定期発行)
                   2018年07月14日号

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         今号のことば    

         1 武者 02 
         2 むすぼれ・むすぼほれ 
         3 むつごと 01

むつのわをきく→第132号「氷・こほり・こほる (2)」参照
無動寺→第204号「大乗院」参照

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       ◆ 武者 02 ◆

【武者】

武者(むしゃ・むさ)と読みます。武者所(むしゃどころ)などと
用います。武芸を習得して軍事に携わった人たちのことです。
制度的な始原については諸説あり、はっきりとは言えませんが、
明治時代初め頃まで続く武士と称した人々を言います。
ちなみに廃刀令は1876年(明治9年)3月に出されています。

もののふのならすすさびはおびただしあけとのしさりかもの入くび
(岩波文庫山家集173P雑歌・新潮1010番・西行上人集・山家心中集)

上の歌にある「もののふ」も「武士・武者」とほぼ同義です。しかし
武者とは少し意味合いが異なると思いますから「もののふ」の項を
立てて記述することにします。

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      木曾と申す武者、死に侍りにけりな

03 木曽人は海のいかりをしづめかねて死出の山にも入りにけるかな
             (岩波文庫山家集256P聞書集227番)

○木曽と申す武者

源義仲のことです。源義賢の次子で源頼朝とは従兄弟になります。
兄の仲家は幼い時から源頼政に養育され頼政の養子となっています。
仲家も頼政とおなじく1180年5月の宇治川合戦で死亡しました。
木曽義仲は源義経などの頼朝軍に追われて1184年1月に近江粟津で
敗死しました。
滋賀県大津市に義仲寺があり、そこに義仲の墓があります。大阪で
死亡した芭蕉は遺言して義仲の隣で永眠しています。

○海のいかり

海の怒りということと、船で用いる碇とを掛けあわせています。
歌には強烈な批評精神に根ざした皮肉が込められています。

「海のいかり」は、1183年10月の備中水島での平家との海戦を指して
いると解釈できます。平家物語に詳しいですが、この戦いは義仲軍の
完敗と言うほどのものではありませんでした。

西行の佐藤家の預所である紀州田仲荘は平家滅亡前の1183年8月、
後白河院によって没収され、その後に源義仲によって佐藤氏同族の
尾藤氏に与えられていると解釈できます。(東鑑参考)
こういうことがあって、西行の義仲嫌いは多分に私憤という側面が
あるのかもしれません。

○死出の山

人が死後に辿ると言われている山。

(03番歌の解釈)

「山育ちの木曽人は海の怒りを鎮めることができなくて、
怒りを沈めて留まることもできず、死出の山にまでも入って
しまったなあ。」
                 (和歌文学大系21から抜粋)

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     申すべくもなきことなれども、いくさのをりのつづき
     なればとて、かく申すほどに、兵衛の局、武者のをり
     ふしうせられにけり。契りたまひしことありしものをと
     あはれにおぼえて

04 さきだたばしるべせよとぞ契りしにおくれて思ふあとのあはれさ
              (岩波文庫山家集257P聞書集229番)

     佛舎利おはします。「我さきだたば迎へ奉れ」とちぎら
     れけり

05 亡き跡のおもきかたみにわかちおきし名残のすゑを又つたへけり
              (岩波文庫山家集257P聞書集230番)

○武者のをりふしうせられにけり

「武者のをりふし」は源平の争乱時を指し、そのころに兵衛の局は
没したということです。

○契りたまひしこと

臨終に際して「しるべ」となることを、生前に兵衛の局と約束して
いたことを言います。それ以外にも兵衛の局が保管していた舎利の
問題もあったものでしょう。

○さきだたば

先に死亡するということ。

○しるべ

たどるべき道を指し示すもの。手引き、道案内のこと。

実際の道案内だけではなくて、人の穏やかな成仏を願い、死後に
たどると信じられていた山路を迷うことなく歩くための、臨終の
際の導師の役割も「しるべ」と言います。

○佛舎利

釈迦の遺骨のことです。日本にも多数あるものと思われます。
五重塔は仏舎利を納める目的で造られました。
西行にとって兵衛は最も親しい女性歌人でしたし、その死後の
仏事を託されてもいました。貴重な遺産である仏舎利をも兵衛は
西行に委ねていたことがわかります。
この仏舎利は一説には待賢門院から兵衛に渡り、兵衛から西行にと
伝えられたものだそうです。
しかしその後、この仏舎利がどうなったのか聞きません。西行死後
にでも、どこかの舎利殿にでも納められているといいのですが、どの
資料にも触れられていないようですので、行方不明なのでしょう。

○おもきかたみ

「重き形見」のことで、釈迦の遺骨を言います。それが永く伝え
られて来た歴史を指しています。

○わかちおきし

兵衛局生前からの約束通り、仏舎利が西行に預けられたことを
言います。

(04番歌の解釈)

「先だって死んだならば、後生の導きをせよと約束なさったけれど、
私が死におくれて思う、残された後のあわれさよ。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

(05番歌の解釈)

「仏が亡くなった後の貴重な形見に分けておいた遺骨の行く末を、
また改めて私に伝えたよ。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

【兵衛の局】

生没年不詳、待賢門院兵衛、上西門院兵衛のこと。
源顕仲の娘で堀川の局の妹。待賢門院の没後、娘の上西門院の女房と
なりました。
上西門院は1189年の死亡ですが、兵衛はそれより数年早く亡くなった
ようで1184年頃に没したと見られています。没したときには80歳を
越えていたものと思われます。
西行とはもっとも親しい女性歌人といえます。
自選家集があったとのことですが、現存していません。

 かぎりあらむ道こそあらめ此の世にて別るべしとは思はざりしを
            (上西門院兵衛 千載和歌集484番)

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     上西門院にて、わかき殿上の人々、兵衛の局にあひ申し
     て、武者のことにまぎれて歌おもひいづる人なしとて、
     月のころ、歌よみ、連歌つづけなんどせられけるに、武
     者のこといで来たりけるつづきの連歌に

06-1  いくさを照らすゆみはりの月
      (前句、兵衛局)(岩波文庫山家集256P聞書集228番)

     伊勢に人のまうで来て、「かかる連歌こそ、兵衛殿の局
     せられたりしか。いひすさみて、つくる人なかりき」
     と語りけるを聞きて

06-2  こころきるてなる氷のかげのみか
       (付句、西行)(岩波文庫山家集256P聞書集228番)


○武者のことにまぎれて

1180年頃からの源平の争乱を指しています。

○ゆみはりの月

弓形をしている月のこと。上弦と下弦の月のこと。
弓は武者の象徴でもあり、戦の縁語です。

○伊勢に人のまうで来て

当時、西行は高野山から伊勢に居を移していました、兵衛の局などは
都に住んでいたので、その消息が人づてに西行に伝わったという事。

○いひすさみて

口に言うだけである…ということ。
言いはしても返しの歌を作らないという意味。
           
○こころきる

分かりにくい表現ですが、身体だけでなく心まで切り刻むという
意味だと思います。そこには武者の世や、命をやり取りする戦闘に
対しての批判が込められています。

○てなる氷

「手にした剣」の比喩表現。鋭利な刃の意味を込めています。

(06-1兵衛局の前句の解釈)

 「戦場を照らす弓張の月よ」
               (和歌文学大系21から抜粋)

(06-2西行の付け句の解釈)

 「心を切る、手の中にある氷のような剣の刃ばかりか」
               (和歌文学大系21から抜粋)

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       ◆ むすぼれ・むすぼほれ ◆

【むすぼれ・むすぼほれ】

「結ぼほる」と(結ぼる)は共に自動詞ラ行下二段活用で、同義。
同じ意味です。(れ/れ/る/るる/るれ/れよ)と活用します。

辞書を見ると「むすぼれ」・「むすぼほれ」は多様な解釈の成立
する用語であることがわかります。 

1 むすばれて解けにくくなる。
2 露などがおく、凝る、かたまる。
3 気がふさいではればれしくない。ふさぐ。
4 関係をつける。縁をつなぐ。
            (岩波書店 広辞苑第二版から抜粋)

1 からまりあって解けにくくなる。
2 露・霜・氷などができる。凝結、凝固する。
3 心にわだかまりがあって憂鬱になる。気がふさぐ。
4 縁故で結ばれる。関係を持つ
             (大修館慣書店 古語林から抜粋)

西行歌で「むすぼほれ」と「むすぼれ」が使い分けられているのは、
おそらくは語調を整えるためだろう
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