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西行辞典

件名: 西行辞典 第348号(170505)
2017/05/05


松の梢にまで波がかかりくる、海の荒れた情景を言います。当時は
海のすぐ側に住吉大社はありました。

(03番歌の解釈)

「普段は住吉の松の根を洗うように波が寄せているが、沖に風が
立つと下枝どころか梢にまで白波がかかるのが聞こえる。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

この歌は俊恵の祖父の源経信の下の歌を参考にして詠んでいます。
俊恵に対しての礼儀みたいな気持ちが西行にあったものでしょう。

◎ 沖つ風吹きにけらしな住吉の松の下枝を洗ふ白波
                (源経信 後拾遺集1063番)

『天王寺こもりのこと』

平安時代中期には観音信仰が高まり、滋賀の石山寺、奈良の長谷寺
などの観音を本尊とするお寺などは、観音の縁日である十八日などに、
籠る風習があったそうです。奈良の長谷観音への参詣は「初瀬詣」
として、京都からも頻繁に行っていたことが「源氏物語」でも描か
れています。また、晦日籠りなども盛んに行われていました。
           「平凡社 (京都市の地名) より抜粋」

山家集では清水寺や広隆寺の堂籠りの時の歌があります。
清水寺本尊は十一面千手観音、広隆寺は阿弥陀如来坐像を本尊と
しています。

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       雙輪寺にて、松河に近しといふことを人々の
       よみけるに

04 衣川みぎはによりてたつ波はきしの松が根あらふなりけり
         (岩波文庫山家集260P聞書集251番・夫木抄)

○双林寺

双林寺は西行とは格別にゆかりのあるお寺です。出家してしばらくは
東山のこのお寺あたりに庵を構えてもいました。
円山公園の南、高台寺の北に位置します。
  
桓武天皇の勅願により、最澄が開基として創建したという由緒ある
お寺です。広大な寺域に多数の塔頭がありました。1141年には鳥羽
天皇内親王の「あや御前」が住持し、1196年には土御門天皇の
「静仁親王」が住持していましたので、その盛時が偲ばれます。
そういう時代の双林寺の敷地内か、その付近に西行は庵を結んで
いたということです
  
元弘の乱で戦場となって荒廃し、国阿上人が中興しましたが、応仁の
乱でも焼亡しています。1605年の高台寺造営の時に寺域を削られ、
また、明治3年(1870)及び、円山公園造営のために明治19年(1886)
にも大幅に削られました。現在は小さな本堂一宇を残すのみです。

鹿ケ谷の変で、平家打倒を企てて鬼界が島に流された平康頼は、
許されて都に戻ってから、ここで「宝物集」を書いたそうです。
「西行物語」では、西行はこのお寺で入寂したと書かれています。
西行と頓阿と平康頼の小さな墓があります。
「都名所図絵」によると、西行は宮城野萩を持ち帰って高台寺
辺りに植えていたようです。
               
○松河に近し

「松の木が川に近い」という事を題にして詠み合ったということです。
松河は地名の可能性がないかと、いろんな資料にあたったのですが、
固有名詞にはありません。当時は句読点を表記する制度自体がなくて、
文字は続けて書いていました。
日本古典全書山家集では、「雙林寺にて、松汀に近し…」とあります。

○人々よみける

これは「歌合」などの場ではなくて、親しい歌人たちが任意に集って
歌を詠みあったということです。「歌会」とも言えるでしょう。
たとえば寂念は「住吉社歌合」「広田社歌合」「賀茂社歌合」などに
参席していることが知られていますが、西行の場合は「宮河歌合」と
「御裳濯河歌合」という二つの自歌合に歌合の歌があるばかりです。
いずれにしても公的な歌合の場には参加していないらしく、その代わり
に私的な歌会には頻繁に参加していることが多くの「人々よみける」
という詞書によって分かります。西行は同時代の親しい歌人たちとの
歌を通しての交流を重ねて来た歌人です。
しかし多くの場合「人々よみける」の「人々」の個人名までは判明
していません。

○衣川

岩手県南西部にある土地名及び川名のこと。
陸奥の国の歌枕。(衣)を掛けて詠われます。
衣川は平泉の中尊寺の北側を流れている小流で、北上川に注いでいます。
土地名としては「岩手県胆沢(いさわ)郡衣川村」のことです。
古代、安倍氏の「衣の関」がありました。 

(04番歌の解釈)

「衣河の汀に寄って立つ波は、そうか岸の松の根を洗うの
だったよ。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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       ◆ 松虫 ◆

【松虫】

コオロギ科の昆虫で秋に鳴くマツムシのこと。
「チンチロリン」と聞こえるようです。
歌では多くは「松虫」の「松」を「待つ」に掛けて秋歌に詠われます。

古くは現在の松虫は「鈴虫」のこと。逆に鈴虫は「松虫」のこと
だったという説があります。しかし、総体的にはそのようには断定
してしまうことはできないとも言われています。

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01 露ながらこぼさで折らむ月影にこ萩がえだの松虫のこゑ
       (岩波文庫山家集74P秋歌・新潮394番・夫木抄)

○露ながら

水滴が付いているのを落とさずに、付いたままの状態で。

○こ萩

「小萩」という植物名ではなくて、小さな萩のこと。幼い萩のこと。

○松虫のこゑ

この歌は視覚に聴覚を合わせた実景的な表現ですが、恋歌としても
読むことができます。「折らむ」「こ萩」「松虫」などは恋の縁語と
しても解釈可能です。

(01番歌の解釈)

「露をそのままこぼさないように折り取ろう。萩の枝の露には
月も映せば、松虫の声まで宿っているから。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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02 あきの野の尾花が袖にまねかせていかなる人をまつ虫の聲
          (岩波文庫山家集64P秋歌・新潮453番)

○尾花

(薄・すすき)はイネ科の多年草。山野に自生し、高さは1〜2メートル。
葉は線形。秋の七草の一つです。

秋になると茎の先に20センチから30センチ程度の花穂をつけます。
この穂が出た状態を「花薄」「尾花」と言います。
薄は、その穂が風に盛んに揺れなびいている様子から人を招いて
いるように見立てて詠まれた歌が多くあります。

○尾花が袖に

ススキの穂が風に揺れ、靡いている状態を、人が袖で他者を招い
ているように見立てた和歌的表現。

 人も着ぬ尾花が袖に招かればいとどあだなる名をや立ちなむ
                     (伊勢 伊勢集)

(02番歌の解釈)

「風になびく秋の野の花薄に人を招かせて、松虫は一体誰を待って
鳴いているのだろうか。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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      秋の末に松虫の鳴くを聞きて

03 さらぬだに聲よわりにし松虫の秋のすゑには聞きもわかれず
          (岩波文庫山家集66P秋歌・新潮475番)

○さらぬだに

「然らぬだに」と書きます。
そうでなくとも、そうでなくてさえ・・・という意味。
ラ行変格活用「さり」の未然形「さら」に打ち消しの助動詞「ぬ」
が付いたことば。
「だに」は副助詞で「さえ、さえも」の意味です。

○聞きもわかれず

声を聞いてもそれを正しく聞き分けることができないということ。

(03番歌の解釈)

「それでなくても松虫は鳴き声が小さいので、とんな虫も衰える
晩秋にもなれば、聞き分けることもできない。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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  (後記)

つい1か月前は桜の協奏曲が鳴り響いていたのですが、五月の声も聞き、
暦は夏にもなっていれば、さすがに遠いかなたの出来事のような気が
します。たかだか1か月前のことなのにと思うと、人間の感覚のおも
しろさに気付きます。

今は初夏の新緑がとても優し気に目に飛び込んできます。桜は見る側
から桜の中に飛び込んで行って味わうという気もします。言うなれば
とても心地よい桜との格闘なのでしょうか。それは非常にうれしい
ことです。しかしそれにはエネルギーも体力も要する気がしますが、
新緑の場合は、ただ受け入れるだけで充ち足りるようにも思います。

こんな思いは、あるいは私の年齢のせいでもあるのでしょう。
自分の年齢に合わせての桜との過ごし方、感じ方、付き合い方という
ものがあるはずです。そしてそれは時間や季節というものに対しての
場合と共通するものなのでしょう。

笑われてしまいますが、来年の春には桜が私の中にどういう感じで
位置を占めているか、そのことを楽しみにしたいと思います。

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◎ 「西行辞典」第348号 2017年05月05日発行

◎ 発行責任者 阿部 和雄
   
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