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西行辞典

件名: 西行辞典 第351号(170702)
2017/07/02
68番)

 「遠つ人松浦佐用姫夫恋に領巾振りしより負える山の名」
             (作者不詳 万葉集巻五871番)

西行も万葉集を読んで、遠く松浦の地や松浦佐用姫伝説に思いを
はせて詠んだ一首だろうと思います。

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01 こがれけむ松浦の舟のこころをばそでにかかれる泪にぞしる
            (岩波文庫山家集242P聞書集119番)

○こがれけむ

「思い焦がれる」の(焦がれ)と船の「艪を漕ぐ」の「漕がれ」を
掛け合わせています。

○松浦の舟のこころをば

佐用姫の心情を思って、人が人に心を委ねた果ての別離の悲しみを
慮っての言葉。

(01番歌の解釈)

「別れを悲しみ恋焦がれただろう松浦の船の中の人の心を、私の袖に
かかっている涙によって知られることだ。」
               (和歌文学大系21から抜粋) 

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       ◆ ま手 ◆

【ま手】

「ま手」はこの一首のみしかありません。
左右両手のこと。「ま」は「眞袖」「真葛」などと同様に接頭語。

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      賀茂ニ首

01 みたらしにわかなすすぎて宮人のま手にささげてみと開くめる
         (岩波文庫山家集225P神祇歌・新潮1525番)

○加茂

京都にある地名及び神社名です。
左京区にある下鴨神社(賀茂御祖神社)と、北区にある上賀茂神社
(賀茂別雷神社)を総称して加茂社と呼びます。
古くからの由緒ある神社であり、5月15日に葵祭りが行われます。

○みたらし

上賀茂神社を流れる小流の名称。

○わかな

1月7日の七草の儀式のために摘んだ若菜を言います。
春の七草のことで、「せり、なずな、おぎょう、はこべら、すずな、
ほとけのざ、すずしろ」の7種の植物のこと。

○みと

「御戸・御扉」のこと。

(01番歌の解釈)

「正月七日には賀茂神社境内の御手洗川で若菜を洗い清め、神官が
両手に捧げて本殿の御扉を開いて供えるように見えた。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

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       ◆ まとゐ ◆

【まとゐ】

人々が集まって車座になっての団らんのこと。円居のこと。

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      水辺納凉といふことを、北白河にてよみける

01 水の音にあつさ忘るるまとゐかな梢のせみの聲もまぎれて
          (岩波文庫山家集53P夏歌・新潮231番)
 
○北白河

京都市左京区にある地名です。現在の白川通り以東、今出川通り
以北の一帯を指します。
「北白川」の地名入り詞書は岩波文庫山家集に合計4回あります。
89ページの下の歌も西行上人集では詞書に「北白川」の地名が
入っています。

    終夜秋を惜しむ

 をしめども鐘の音さへかはるかな霜にや露の結びかふらむ
          (岩波文庫山家集89P秋歌・新潮490番・
                西行上人集・山家心中集)

(01番歌の解釈) 

「ここ北白川では、涼しげな水の音に、集まった人々も暑さを
忘れてしまうことだ。梢に鳴く蝉の暑苦しい声も流れの音に
まぎれてしまって。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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     かくてものがたり申しつつ連歌しけるに、扇に
     さくらをおきてさしやりたるを見て        

02-1 あづさ弓はるのまとゐに花ぞみる
      (前句、顕廣)(岩波文庫山家集259P聞書集245番)

     とりわきつくべきよしありければ

02-2 やさしことになほひかれつつ
      (下句、西行)(岩波文庫山家集259P聞書集245番)

○連歌

詩歌表現形式のひとつ。万葉集巻八の尼と大伴家持の作品が
連歌の起源ともいわれています。 

  佐保河の水を塞き上げて殖ゑし田を (尼)
  苅る早飯(わさいひ)は独りなるべし (家持)

連歌は室町時代に流行し、江戸時代の俳諧にと発展しました。
数人で詠み合うのが普通ですが、一人での独吟、二人での両吟、
三人での三吟などもあります。

○顕廣

藤原俊成が1167年に改名するまでの名前。葉室顕頼の養子と
なって、葉室顕廣(広)と名乗っていました。
葉室家も出自は藤原氏です。

○あづさ弓

梓の木で作った弓のこと。カバノキ科の植物である梓(別名ミズメ)は
古来、呪力のある植物として信じられていて、武具としてよりも神事
に主に用いられたようです。「梓の弓をはじきながら、死霊や
生霊を呼び出して行う口寄せ」のことを「梓」ともいい、それを
執り行う巫女を「梓巫女」という、と古語辞典にもあります。
古代の素朴な民族宗教と密接に関係していた弓です。
和歌においては枕詞的に用いられ、音、末、引く、張る、射る
などに掛けて詠まれています。
万葉集にも多くの「梓弓」の歌があります。
 
○はるのまとゐ

(円居・団居) 一家の者が楽しく集まること。だんらん。車座に
なること。       
            (講談社「日本語大辞典」より抜粋)

春の日に友人たちが寄り集まって歓談する状況を指しています。
(まと)は的であり、弓の縁語です。

○とりわきつくべき

西行を名指しして、あとの句をつけるように・・・とのこと。

○やさしことに

底本では(やさし)と(ことに)の間に(き)が入っています。
岩波文庫版では(マヽ)と傍記されていて(やさししことに)と
読めます。
「やさしことに」は字足らずなのですが、梓弓の縁語仕立てに
するために意図的に(き)を傍記したものでしょう。
従ってここでは(矢差しことに・・・)の意味も含んでいます。

(02番連歌の詞書と歌の解釈)

こうして物語をしながら連歌を詠んでいる時に、扇の上に桜の
花弁をおいて、差し出したのを見て

「春の団欒に、弓張りの形の扇の的の上に、射られた矢ではなく、
花を見ることだ。」               (顕廣)

特に西行を指名して、あとの句をつけるように言われたので

「風雅なことには出家後もなを変わらずに引かれている」(西行)
   (和歌文学大系21及び渡部保氏著「西行山家集全注解」を
       参考にしています。) 

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  (後記)

     六月祓
みそぎしてぬさとりながす河の瀬にやがて秋めく風ぞ凉しき
         (岩波文庫山家集55P夏歌・新潮253番)

     山居のはじめの秋といふことを
秋たつと人は告げねど知られけり山のすそ野の風のけしきに
         (岩波文庫山家集55P秋歌・新潮255番・
            西行上人集追而加書・西行物語)

すでに6月30日の夏越しの祓の日も過ぎました。
夏を越えれば次は秋なのですが、今年はなんと5月が閏月。本日7月
2日は旧暦閏5月9日。むろん新暦と旧暦の違いによるものですが、
夏が終わっても立秋は一か月以上先の8月7日。夏が終わったのに
秋にならないという宙ぶらりんな1か月以上が続くことになります。
まだ本格的な夏が来ないうちに本来は秋の行事である七夕ももう
すぐ。新暦旧暦の違いを超えて、妙な感覚を味わいます。夏は
終わったけど、これから来る暑さ厳しい夏、ご自愛念じあげます。

眼の手術のために西行辞典は二か月間ほどお休みします。次回発行は
9月に入ってからになるのではないかと思います。
ご了解願いあげます。

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◎ 「西行辞典」第351号 2017年07月02日発行

◎ 発行責任者 阿部 和雄
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◎ 発行システム インターネットの本屋さん「まぐまぐ」を
 利用させていただいています。
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