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西行辞典

件名: 西行辞典 第353号(170910)
2017/09/10
   (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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03 涙川ふかく流るゝみをならばあさき人目につつまざらまし
          (岩波文庫山家集151P恋歌・新潮661番)

○涙川
   
固有名詞としての「涙川」は無いようですが、「五代集歌枕」も
「八雲御抄」も伊勢の国の歌枕としています。

ここでは歌枕とは関係なく、大量に流れ出る涙を川の水の流れに
例えています。
古来、「涙川」のある歌はとても多く詠まれてきました。

○あさき人目

難解な表現です。ここにある「あさき」は三句の「みをならば」に
かかるもののようです。
でもそれでは、どことなく疑問を覚えます。
ここでは他人の恋心にまで関心を持って注視する「あさましい」
おせっかいで軽薄な人目のことだと解釈したいと思います。
「ふかく」の言葉と照応しています。

○つつまざらまし

動詞「包む」の活用形に、打消の助動詞「ず」の未然形「ざら」
及び推量の助動詞「まし」が接続した言葉です。
「つつまざらまし」で、包まれなかったであろうに…という仮想
現実を表す言葉です。
包むは覆い隠すという意味がありますが、ここでは人目に付くと
いうこと、人に知られて人々の好奇の目に包まれる事はなかった
ということになります。
「ざらまし」の言葉のある歌は西行に7首があります。

(03番歌の解釈)

「あなた恋しさに流れた涙が川になる。その涙川もからだの奥深く
流れる水脈ならば、発覚しなかったでしょうに。水脈が浅くて私の
涙はすぐに人目についてしまいました。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

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04 もの思へば袖にながるる涙川いかなるみをに逢ふ瀬ありなむ
          (岩波文庫山家集151P恋歌・新潮663番・
           西行上人集・山家心中集・新千載集)

○袖にながるる涙川

もちろん誇張表現であり、実際には衣の袖に涙の川が流れるわけ
ではありません。こういう表現を通して、恋愛における心情の
ありかや程度を表そうとしています。

(04番歌の解釈)

「恋しい人を思うと涙が袖に川のように流れるが、その川は
ついにはどんな水脈に逢う瀬となるのだろう…自分はいつ
恋人に逢えるのだろう。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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05 涙川さかまくみをの底ふかみみなぎりあへぬ我がこころかな
     (岩波文庫山家集154P恋歌・新潮692番・万代集)

○みなぎりあへぬ

「漲り敢へぬ」のことで、漲ることがないということ。
一杯に満たされることがないということ。

(05番歌の解釈)

「あなたを思うと涙があふれ出て、川面に波が逆巻く涙川のよう
ではあるが、水脈は川底深く流れているので、私の恋心は水が満ち
あふれるようには満たされないままである。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

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06 捨てて後はまぎれしかたは覚えぬを心のみをば世にあらせける
          (岩波文庫山家集191P雑歌・新潮1508番)

○捨てて後

俗世を離れて出家してから後は・・・ということ。

○まぎれしかた

他のものと混ざり合って、元の形がわかりにくくなること。
西行本人のことであるとするなら、出家前の生活とを対比させた
上での言葉です。

○心のみを

自分の生き方みたいのこと、感じ方みたいなものの例え。
        
(06番歌の解釈)

「出家後は俗人の生活とはきっぱり縁を切ったと思っているが、
心だけはまだ俗世間を離れられないでいる。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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       ◆ みをつくし ◆

【みをつくし】

水路の串である「澪の串」が原意。
難波の港などでは浅瀬が多くて船の航行にも難渋するので、安全な
航路を示すために海中に串を立て、それを目印としました。
それが「みをつくし」です。
歌では「みをつくし」に「身を尽くす」という意味を載せて詠ま
れている歌が多くあります。

 わびぬれば今はた同じ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思う
               (元良親王 百人一首20番)

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01 ひろせ河わたりの沖のみをつくしみかさそふらし五月雨のころ
          (岩波文庫山家集49P夏歌・新潮217番・
              西行上人集追而加書・夫木抄) 

新潮版では「みをつくし」は「みをじるし」となっています。

 広瀬河 渡りの沖の みをじるし 水嵩ぞ深き 五月雨のころ
              (新潮日本古典集成山家集217番)

○ひろせ河

川幅の広い川です。瀬も比較的浅くて水はゆったりと流れている
光景が想像できます。
「ひろせ河」は普通名詞のはずですが、固有名詞とするなら奈良県
北葛城郡河合町の各河川の合流するあたりを指すようです。
宮城県にも広瀬川があります。

○わたりの沖

「わたり」は「行くこと・来ること」の渡ることですが、往来する
こと以外に、渡し場・船着き場・海峡などの意味も持ちます。

○みかさそふらし

浅瀬である広瀬川にも五月雨のために水量が増して、澪標にも
水嵩が高くなっていることが分かるということ。
「そふらし」の「そふ」は増えるという意味があります。

(01番歌の解釈)

「五月雨の頃の広瀬川では、渡し場から遠い川の真中にある澪標を
見ると、いよいよ水かさのましたことが知られるよ。」
             (新潮日本古典集成山家集より抜粋)

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       ◆ みがき… 01◆

【みがき…01】

「みがき」の歌は4首を数えます。「みがき」は磨きであり、項目化
するほどのこともないのですが、「みがきいでて・みがきかえて」が
気になって、ここで記述することにします。

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1 いさぎよき玉を心にみがき出でていはけなき身に悟をぞえし
          (岩波文庫山家集218P釈教歌・新潮883番)

○いさぎよき玉を

「いさぎよき=潔き」は、大層清らかである、汚れがない、すが
すがしい、という意味です。
玉は宝珠ということですが、宝珠とはここでは法華経そのものの
例えということです。法華経の真髄ということなのでしょう。

詞書に「提婆品」とありますが詳しくは「提婆達多品」といいます。
この経典からの歌は3首連作になっています。
龍王の娘の八歳で死亡した龍女が女身でありながら仏身となった
経緯が説かれています。成仏して後、龍女は男性に変化したと
いうことですから、経典自体も男尊女卑の思想が根本から強い
ものだった、ということかもしれません。
 
○みがき出でて

自分の中での仏教信仰の深化を意味しています。生活の中で不断に
信仰している姿勢を言います。

○いはけなき身

まだ年齢が幼くて分別がないこと。物心がつかないこと。
子供っぽいこと。

(01番歌の解釈)

「清らかな玉を心の中に磨き出して、龍女は幼い八歳の身で悟る
ことができたのだよ。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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  (後記)

季節は移り、夏のあの暑さはすでに遠いかなたのような気もします。
昨日に重陽の節句も過ぎました。これからは暑くもなく寒くもない
という、すばらしい日々が少しの期間続きます。

右目の術後9週間、左目術後7週間になろうとしています。これまでは
術後の経過を見ながらの活動を自粛してきた期間なのですが、今後は
できる範囲で活動したいものです。とはいえ高齢、思うことの半分と
できるものかどうか怪しいものです。制約のある中でも、いろいろと
楽しむことができるなら嬉しいことです。

しかしながら今の段階では計画らしいものは殆どないままです。
西行歌にある固有の場所にも多く行きましたが、行っていない所も
まだまだあります。二泊三日程度でも意を決しないと行けないのですが、
とりあえずはお盆のころに奈良県の二上山に登ろうと思案しています。
二上山の雄岳と雌岳の間に落ちる神秘的な夕日も見たいものです。

皆さんも良い秋を過ごされることをと願っています。

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◎ 「西行辞典」第353号 2017年09月10日発行

◎ 発行責任者 阿部 和雄
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◎ 発行システム インターネットの本屋さん「まぐまぐ」を
 利用させていただいています。
 
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