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西行辞典

件名: 西行辞典 第358号(171203)
2017/12/03
  舟底にみすりしぬべし心せよのみのさせるを頼まざらなん
                (和歌文学大系21の表記)

○しぬへし

解釈に迷う言葉です。「し」+「ぬ」+「べし」なのでしょう。

「し」は、当時の「する」のサ行変格活用の連用形。
「ぬ」は強意を表す完了の助動詞。
「べし」は推量の助動詞「べし」の終止形。
「しぬべし」で当然にそうしているはずだ、という強い確信を持って
いる時の言葉です。
通して解釈すると「舟底には確実に水が入って来ているだろう」と
いう意味になりそうです。

○のみのさせる

「のみ=(竹かんむりに如)環境依存文字でマガジンでは使用不可」
とは、樹のヒノキの内皮を剥いで、砕いて柔らかくしたものです。
それを舟や桶などの水漏れ防止用、修繕用に水の漏れている所、
漏れそうな所に詰めて使います。
「のみのさせる」で「のみ」を詰めていることを言います。

○たのまさらなむ

「頼まざらなむ」で、頼みにしてはいけない、当てにしてはならない
ことであり、常に注意が必要であるということ。

(01番歌の解釈)

「舟底に水漏れがするだろう。用心しろ。「のみ」が差して
あるのをあてにするな。」
                (和歌文学大系21から抜粋) 

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       ◆ 御袖 ◆

【御袖】

御袖のある二首はともに人の着る着物の袖を詠った歌ではなく、
比喩として用いられています。
01番歌は二条院の慈愛に満ちた治世という意味であり、02番歌は
住吉大社の神の着る衣の袖という意味です。

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01 かひありな君が御袖におほはれて心にあはぬことしなき世は
          (岩波文庫山家集171P雑歌・新潮1197番・
                 西行上人集・山家心中集)

上の歌は1189番からの貝合わせに寄せての連作9首のうちの最後の
一首です。この連作では袖貝、雀貝、桜貝、簾貝などの名称も
あり、縁語も多用していて、知的で楽しいものとなっています。
連作の前の詞書では
「内に、貝合せんとせさせ給けるに、人に代わりて」とあります。
人とは個人名は不明ですが、女房の一人に代わっての詠作でしょう。
二条院(1143〜1165)在世中の1162年に行われた貝合わせとみら
れています。

○かひありな

貝があるということと、二条院の治世下に生まれ合わせたことの
甲斐がある、ということを掛け合わせています。

○君が御袖

君の袖のこと。君とは二条院のことであり、二条院の袖の中という
ことで、二条院に庇護された心安らかな状態を言います。

○ことしなき世

「ことし」の「し」は語調を整え、「こと」を強調する言葉です。
心に合わない(ことはない世)という意味です。

(01番歌の解釈)

「この世に生まれ合わせてよかった。盛大な貝合の行事をなさる
二条院の庇護のもと、満たされないことなど一つもなく、貝の
合うようにすべてぴたりと心に合う世の中なのだから。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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     人々住吉にまゐりて月を翫びけるに

02 片そぎの行あはぬ間よりもる月やさして御袖の霜におくらむ
           (岩波文庫山家集76P秋歌・新潮409番・ 
                  西行上人集・夫木抄)

○住吉

摂津の国の住吉大社そのもの、または住吉の地をいいます。
住吉大社は航海安全などを祈願する海の神様であり、同時に歌の
神様としても崇敬されていました。

○片削ぎ

片側を人工的に削いでいるということ。
「行きあい」の言葉を導き出すための枕詞です。
神社の建築物の屋根にある「千木」にかかる言葉です。
千木は男性神の場合は外側に垂直に切り、女性神の場合は水平に
切るとのことです。
住吉大社では神宮皇后を祀る第四本宮の千木が水平になっています。
和歌では「片削ぎの千木」とは住吉大社を特定するようです。

○行あはぬ間

千木の両方の間にある空間を指すものと思います。

(02番歌の解釈)

「住吉大社の片削ぎの千木を漏れる月が、あまりに冷たく美しい
から神の袖に霜が降りたように見えるのだろうか。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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       ◆ みたけ・御嶽 01 ◆

【みたけ・御嶽】

奈良県から三重県に渡る大峰奥駆道にあり、大峰修験道の聖地で
ある山上が岳を指します。

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     みたけよりさうの岩屋へまゐりたりけるに、もらぬ
     岩屋もとありけむ折おもひ出でられて

01 露もらぬ岩屋も袖はぬれけると聞かずばいかにあやしからまし
         (岩波文庫山家集121P羇旅歌・新潮917番・
           西行上人集・山家心中集・西行物語)

○さうの岩屋

「岩屋」は岩窟のこと。

奈良県の大峰山中にある靡(なびき)の一つに「笙の窟(いわや)」
があります。奥駈道の靡は75番まであり、熊野本宮大社からの順峰
の順で言うと、熊野本宮大社が1番靡、吉野川が75番靡となります。
その第62番目の靡が「笙の窟」です。

大普賢岳の近くにあり、数百メートルの断崖の下にある洞窟が
「笙の窟」です。山岳修験者の冬ごもりは毎年、ここで行われて
いたようです。

○もらぬ岩屋も

行尊僧正の下の歌にある句のことです。

 草の庵をなに露けしと思ひけんもらぬ窟(いはや)も袖はぬれけり 
                 (行尊 金葉集 雑上)

尚、123ページにある次の歌も行尊僧正を思っての歌です。

 あはれとも花みし嶺に名をとめて紅葉ぞ今日はともに散りける
    (岩波文庫山家集123P羇旅歌・新潮1114番・西行物語)

○露もらぬ

天井から水分が少しも漏れ落ちてこないこと。

○聞かずば

笙の岩屋のことを詠った行尊僧正の歌を知らなかったならば・・・
という意味です。

○あやしからまし

行尊僧正の歌にある「袖はぬれけり」についてです。西行も実際に
岩屋に来てみて、行尊僧正の歌の意味が感得できたということ。
そうでなければ岩屋に来て、自分の流す涙の意味が分からなかった
だろうということ。

(01番歌の解釈)

「笙の窟は雨露がまったくもれないはずなのに、私の袖は法悦
の涙の露で濡れてしまった、と詠んだわが敬愛する行尊の歌を
知らずにこの地に立っていたら、私のこの涙をどう説明したら
いいのかわからなかったよ。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

(行尊僧正)

1035年〜1135年まで存命。81歳にて入寂。
三条天皇敦明親王の孫で源基平の子。12歳で園城寺(三井寺)にて
出家。17歳で園城寺を出てから諸国遍歴し、熊野などで修行。
山岳修験の第一人者と目されていたようです。
あと、園城寺長史、天台座主、平等院別当などを歴任しています。
家集に「行尊大僧正集」があります。
百人一首歌人でもあり、次の歌が第66番に採られています。

 もろともにあはれと思へ山桜 花よりほかに知る人もなし
           (大僧正行尊 百人一首66番・金葉集)

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  (後記)

 暮れ果つる秋のかたみにしばし見む紅葉散らすなこがらしの風
         (岩波文庫山家集89P秋歌・新潮488番)

この歌にある思いと似た気持ちで、今年はいつの年にもまして多くの
紅葉を見る機会を得ました。台風21号の影響で染まり具合が良くない
という説も仄聞しましたが、実際にはまずまずの染まり具合でした。
しかしその紅葉の美しさも、葉の色素に加えて光の作用が導き出す
ものです。
散りゆく間際に一瞬の輝きを放って終わる紅葉は、高齢者として
括られる年代にになったからこそ味わえ楽しめるのかもしれません。
残された時間との競争という意識も、あるいは紅葉に対しての渇望
めいた気持を深めて、なおさらに美しく感じさせるのでしょう。

ともあれ、私には納得の秋であり、納得の紅葉でした。

今号発行は予定より遅れてしまいました。年内に何とかあと2回は
出したいものと思っています。

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◎ 「西行辞典」第358号 2017年12月03日発行

◎ 発行責任者 阿部 和雄
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◎ 発行システム インターネットの本屋さん「まぐまぐ」を
 利用させていただいています。
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