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西行辞典

件名: 西行辞典 第361号(180105)
2018/01/05
上空のこと。上空にある月のみが形見であるとも取れますが、
浮ついた頃の気持というふうにも解釈できます。
それゆえに山家集では出家関連歌郡の中にあるのでしょう。
出家直後の多感な年代の歌と解釈すれば、しっくりきます。

○出でば

(出れば)ということ。
この歌の詞書に「遥かなる所に籠もりて・・・」とあり、遥か
なる所とは(出でば)から、出羽の国とする解釈もあります。

(02番歌の解釈)

「空にかかる月だけが、うかれ出てしまった自分の形見であり、
あなたがその月を見て自分のことを思い出してくれるならば、月を
仲立ちとして二人の心は通うことだろう。」
           (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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「出羽の国・たきの山」(第210号参照)(第168号参照)

     又の年の三月に、出羽の國に越えて、たきの山と申す
     山寺に侍りける、櫻の常よりも薄紅の色こき花にて、
     なみたてりけるを、寺の人々も見興じければ

01 たぐひなき思ひいではの櫻かな薄紅の花のにほひは
     (岩波文庫山家集132P羇旅歌・新潮1132番)

     おなじ旅にて

02 風あらき柴のいほりは常よりも寢覚めぞものはかなしかりける
         (岩波文庫山家集132P羈旅歌・新潮1134番・
               西行上人集追而加書・玉葉集)
                
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「最上川」(第186号・349号参照)

03 最上川つなでひくともいな舟のしばしがほどはいかりおろさむ
                 (崇徳院詠歌)
        (岩波文庫山家集132P羇旅歌・新潮1163番・
             西行上人集・山家心中集・夫木抄)
  
      御返奉りける
                         
04 つよくひく綱手と見せよもがみ川その稲舟のいかりをさめて

   かく申したりければ、ゆるし給ひてけり
        (岩波文庫山家集183P雑歌・新潮1164番・
            西行上人集・山家心中集・夫木抄)
           
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「象潟」(第113号・226号参照)

      遠く修行し侍りけるに、象潟と申所にて

05 松島や雄島の磯も何ならずただきさがたの秋の夜の月
      (岩波文庫山家集73P秋歌・西行上人集追而加書)

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(参考歌)

01 象潟や桜の波にうづもれてはなの上こぐ漁士のつり舟
             (伝承歌(継尾集)・奥の細道) 

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       ◆ みつ ◆

【みつ】

地名で「御津」のことです。
「津」とは舟が停泊する港・入り江など意味しています。
01番歌の「みつ」は伊勢の国、02番歌は近江の「みつ」と解釈
できます。

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     伊勢にまかりたりけるに、みつと申す所にて、海邊の
     春の暮といふことを、神主どもよみけるに

01 過ぐる春潮のみつより船出して波の花をやさきにたつらむ
           (岩波文庫山家集41P春歌・新潮170番) 

○みつと申す所

地名です。三重県伊勢市二見町内の西側にある「三津」のことです。
五十鈴川の分流である五十鈴川派川に面しています。

○過ぐる春

春が過ぎて行くその過程のこと。現在進行形の春です。
この歌は「春」が主語。

○潮のみつ

「潮が満ちる」ということと、地名の「三津」とを掛け合わせて
います。三津の港は三重県伊勢市二見町にありますが、海ではなくて
五十鈴川派川に面しています。五十鈴川派川は五十鈴川(御裳濯川)
と朝熊町で分かれて、二見町の西側を流れて伊勢湾に注いでいます。
ですから五十鈴川派川を舟で少し下って伊勢湾に出たということ
です。海に近いために、満潮の時には三津の港の水位も上昇する
ものと思います。

○波の花

波の満ち引きの運動によって生じる白い泡や波しぶきを指す名詞。
白い花、特に桜の花に見立てての言葉。

(01番歌の解釈)

「春は花に先導されて過ぎ去って行くものですが、伊勢の春は、
潮が満ちてくる三津の港から船出して、花が咲いたように白く
立つ波の飛沫に先導されて旅立ってゆくのですね。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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02 思ひ出でよみつの濱松よそだつるしかの浦波たたむ袂を
         (岩波文庫山家集165P恋歌・新潮1498番)

○みつの濱松

琵琶湖の湖西の比叡山東麓にあたる大津市下坂本の湖岸を「御津」と
言います。松で有名な「唐崎」からは2キロほど北に位置します。
御津の浜に生えている松のことです。

近江の他には摂津国の歌枕としても「御津」があり、「大伴の御津」
「難波の御津」の形で多くの歌が詠まれています。

○よそだつる

「よそよそしく見える」ということと、他所(よそ)という意味の
「遠く離れて立っている」ということを掛けています。

○しかの浦波

滋賀県の琵琶湖の汀に寄せては返す波をいいます。 

○たたむ袂

袂を畳むこと。嘆きが次々と押し寄せてきて涙に濡れている袂を
言います。
「波」や「袂」を畳むという言葉によって、その情景や作者の心理
状態を表現しています。

(02番歌の解釈)

「思い出して欲しい。志賀の浦波が打ち寄せてもよそよそしい
御津の浜松のようなあなたのために、私の袖は波が立つほどに
涙で濡れていることを。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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(参考歌)

新潮版山家集には「御津」の漢字表記の歌が二首あります。
以下です。01番歌は「山家集全注解」でも「御津」とあります。

01 水底に 敷かれにけりな さみだれて 御津の真菰を 刈りに来たれば
               (新潮古典集成山家集221番)

02 思ひ出でよ 御津の浜松 よそだつと 志賀の浦波 たたん袂を
             (新潮新潮古典集成山家集1498番)

01番歌は岩波文庫山家集や和歌文学大系21では以下のようになって
います。「山家集類題」でも当該個所は「水」です。

 水底に敷かれにけりなさみだれて水の真菰を刈りに来たれば
          (岩波文庫山家集50P夏歌・新潮221番)

「水」=岩波文庫山家集・和歌文学大系21・山家集類題。
「御津」=新潮古典集成山家集・山家集全注解。
伊藤嘉夫氏の「山家集」では二首ともに「みつ」です。

なぜこんな表記違いがあるかというと、底本によっての違いがその
まま出たということです。底本に忠実であろうとするなら、こんな
違いが発生します。

岩波文庫山家集や和歌文学大系21は松本柳斎校訂の「山家集類題」を
底本とし、新潮古典集成山家集は陽明文庫版山家集を底本として
います。山家集全注解は西行全集他の多くの著作を参考としています。

平安時代は濁点を使っていない時代ですし、漢字使用率も少ない
ものでした。美豆及び御津の地名もひらがな表記ではともに
「みつ」です。ゆえに地名であればどこの「みつ」なのか確定しない
ままです。「水」の場合はそのまま「水」とすれば良いのですが、
しかしひらがな表記をすれば「みつ」です。
要するに「みつ」が「水」「美豆」「御津」のどれであるのかは、
これまでの校訂者の才覚に委ねられているとも言えそうです。校訂者
は元の歌をよく読み込み自身の才覚で「美豆」なり「御津」なり
「水」を選択しなくてはなりません。実に大変な作業だったはずです。
そういう作業をした先達の方々がいたことによって、私たちは西行歌
をより身近に感じることができるようになったと思います。

○御津

難波江の歌枕。真菰で有名だったそうです。

(01番歌の解釈)

「五月雨が降り続くこの頃、御津の真菰を刈りに来ると、すっかり
水かさが増し、真菰は水底に入り乱れて敷いたようになっているよ。」
             (新潮新潮古典集成山家集から抜粋)

「増水のために真菰は川底に乱れたまま敷かれてしまったよ。
美豆野まで刈りに来たのだけれど。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

私の感覚では「御津」でも「水」でもなく、「美豆」を選びそう
です。初めに「水底」に「水」の文字がありますので、同じ「水」
の重複を避けたく、かつ海水や汽水域を連想させる「御津」と
「真菰」の取り合わせが少しく引っ掛かります。
和歌文学大系21でも「美豆」と解釈しています。

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  (後記)

新年あけましておめでとうございます。
読者の皆様のご健勝とご活躍を願いあげます。
「西行辞典」は本年も頑張ります。お付き合いの程、よろしく
お願いいたします。

この正月は天気が極端に悪いというわけでもなかったので、急遽、
思いついて京都一周をしてきました。むろん歩いてです。
私の住む所は西京区。自宅から→嵐山→広沢の池→金閣寺→北大路
から鴨川を南下して三条大橋→知恩院→八坂神社→博物館→水族館
→自宅というコースでした。むろん寺社などは横目で見るだけで
歩き過ぎました。
歩数は48000歩ほど。距離で31キロ。時間は約8時間。休憩も入れて
では時間当たり4キロ程度。年齢的にはこれで十分かもしれません。
何とか歩けた
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