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西行辞典

件名: 西行辞典 第366号(180310)
2018/03/10
 みてよみける

07 いかばかり凉しかるらむつかへきて御裳濯河をわたるこころは
             (岩波文庫山家集261P聞書集257番)

○通親の宰相

村上源氏。内大臣源雅通の長男として1149年出生。1202年、54歳
で死亡。
久我(こが)及び、土御門(つちみかど)とも称しました。
後白河院、後鳥羽院などに仕えて活躍しています。通親の養女が
土御門天皇を産んでからは外祖父として権勢をふるいました。
平氏全盛期では平氏にべったりで、初めの妻を離縁して清盛の姪を
めとり、平氏が凋落する間際には、後白河院にすり寄っています。
清盛の姪とも離縁して、後白河院近臣貴族の娘を妻にもしています。
権謀術数に長けた独裁政治家として、政敵の九条兼実も失脚させ
ました。非常にいやらしい政治家としての印象を受けます。

源通親が公家勅使として都を立ったのが寿永二年(1183年)4月
26日のこと。通親35歳。西行66歳。
この月、伊勢神宮の主な祭りもなく、皇室にも特に慶事もあり
ませんでしたので、何のための勅使であるか不明です。源平の
争乱期でもあり、国家安泰の祈願のためであるのかもしれません。

1183年7月、平氏一門は都を捨てて西海に遁走、後白河院や通親は
平氏勢力に取りこまれることを避けて比叡山に逃れています。
この後、壇ノ浦の合戦で平氏滅亡。1185年3月のことです。

○五十鈴

伊勢神宮内宮を貫流する五十鈴川のこと。
五十鈴川は賀歌や神祇歌に詠まれていますが、しかし、別称の
御裳濯川の方がはるかに多くの歌に詠み込まれている川名です。

○つかへきて

朝廷に長く仕えてきたこと。この年に通親が仕えていたのは後白河
法皇です。

○とくゆきて

「疾く行きて」の意味。勅使の通親に早く行きなさい、と、
進めていることば。

○神風

伊勢神宮の神威によって吹く風。

○み扉ひらけ(みとひらけ)

「み」は美称の接頭語。神殿の扉を開けなさい…ということ。

○天のみかげ

「あめ」は天(あま)の転化した読み方。
「天のみかげ」は、「日のみかげ」とともに対をなしていて、
大祓えの祝詞の中にもある用語です。
「御蔭」の漢字をあてています。
伊勢神宮内宮に祀られている「天照大神」を指して「天の御陰」
というものなのでしようが、伊勢神宮は天皇家のものでもあり、
同時に天皇家をも指して「天のみかげ」と言っているはずです。

(07番歌の解釈)

「勅使よ早く行って神風をお恵み下さる御戸を開け、そうすれば
大神は神殿に鎮座しながら世を照らし続けるよ。」
                (和歌文学大系21から抜粋)
【勅】

天皇が下す命令を言います。
勅撰、勅許、勅勘、勅命、勅願、勅宣、勅使などの成語があります。

【勅使】

「勅使」とは天皇の命令を伝える使者のこと。

03番歌の詞書の(公卿=くぎょう)とは朝廷の位階で参議以上の人を
言います。
参議はほぼ三位以上の人を言いますが、四位であっても参議で
あれば公卿です。
公卿は「公」と「卿」に分けられます。
「公」は太政大臣、右大臣、左大臣、内大臣など。
「卿」は大納言、中納言、少納言、などを言います。

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         ◆ 御裳濯河歌合 ◆

【御裳濯河歌合】

西行最晩年の陸奥行脚の前後に編まれて、伊勢神宮内宮に奉納された
自歌合です。左は山家客人、右は野径亭主という架空の人物の作と
して、36番合計72首を番えて、藤原俊成に判を依頼しました。

「歌合=うたあわせ」とは平安時代に起こったとされていて、歌人を
左右に分けて、左右それぞれの歌を一首ずつ組み合わせて、優劣を
競うものです。
普通は初めに題が提示されていて、その題に沿った歌が詠まれます。

これとは別に御裳濯河歌合の場合は西行一人の歌よる「自歌合」です。
判(はん)とは、歌合で番えられた二首の優劣を判定することです。
判定は、勝ち・負け・持(じ)があります。「持」とは、引き分けの
ことです。
御裳濯河歌合では「1番左」に今号01番の「岩戸あけし…歌。
「1番右」に「神路山月さやかなる…」歌が番えられています。

 「岩戸あけしあまつみことのそのかみに櫻を誰か植え始めけむ」

 「神路山月さやかなる誓ひありて天の下をばてらすなりけり」

俊成の判は「一番のつがひ、左の歌は、春のさくらをおもふあまり、
神代の事までたどり、右歌は、天の下をてらす月を見て、神路山の
ちかひをしれる心、ともにふかく聞ゆ、持とすべし」とあります。

尚、俊成はその序に

「上人円位壮年のむかしより、たがひにおのれをしれるによりて、
二世の契をむすび終りにき、各老にのぞみて後は離居は山河を隔つ
といへども、むかしの芳契は旦暮に忘るることなし」

と記述しています。

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          ◆ 御裳濯集 ◆

【御裳濯集】

西行没後43年目の1233年(天福元年)に寂延法師「俗名、荒木田長延」
によって撰された歌集。正しくは「御裳濯和歌集」のこと。
もともとは1000首余が撰入していたのですが、残存しているのは496首。
このうち西行歌は54首。54首のうちには以下の二首の歌もあります。

御裳濯和歌集の序文によれば、伊勢の国に関係する歌が採られて
います。とはいえ、地名も入っていない歌も多くて、読者は伊勢の
国との関りが分からないものです。下の歌二首なども、伊勢の国の
地名もなく、伊勢の国で詠まれた歌かどうかは分かりようもありません。

○道の辺の清水ながるる柳蔭しばしとてこそ立ちとまりつれ
      (岩波文庫山家集54P夏歌・新潮欠番・新古今集・
               御裳濯集・玄玉集・西行物語)

○よしの山花をのどかに見ましやはうきがうれしき我が身なりけり
 (岩波文庫山家集34P春歌・新潮欠番・西行上人集・御裳濯集)

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          ◆ 宮川 01 ◆

【宮川】

三重県の大台ケ原山に源流を発して東流し、伊勢市で伊勢湾に注いで
いる全長90キロメートルほどの川です。
JR参宮線で言えば、宮川駅と山田上口駅の間を流れています。伊勢
両宮は山田上口駅よりは南西方向になります。
尚、斎宮御所は宮川の北方に位置し、伊勢神宮外宮からでも10キロ
メートルは離れた斎宮駅の近くにあったことが確実です。

この宮川とは別に奈良県の吉野宮瀧付近を流れる「吉野川」の一流域
を「宮瀧川」と言います。宮瀧川を略して宮川と記述している歌も
あります。それが01番歌の宮川です。

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01 瀧おつる吉野の奧のみや川の昔をみけむ跡したはばや
         (岩波文庫山家集172P雑歌・新潮1545番)
 
○みや川

この歌の「みや川」は、伊勢市で伊勢湾に注いでいる「宮川」では
ありません。奈良県を流れる吉野川の吉野宮滝付近の流れを指して
います。このあたりは宮滝川と呼ばれていますが、万葉集では
「秋津川」とも記されています。

○吉野の奥

地理的には奈良県側の吉野の入り口から見て。宮瀧川は東南に
当たります。感覚としては「吉野の奥」でもあるのでしょう。

○昔をみけむ跡

宮滝には縄文時代からの「宮滝遺跡」があります。
また西暦300年頃に造られたという「宮滝離宮」が有名です。
第15代応神天皇から第45代聖武天皇の間の400年以上も使われた
離宮のようです。それを指して「昔をみけむ跡」と言っています。

(01番歌の解釈)

「滝が落ちる吉野の奥の宮滝川に、離宮を慕って行われたという
御幸の跡を私も慕って見に行きたい。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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  (後記)

季節は移り本日は3月10日。随分と暖かくなったものです。とはいえ、
本日はなんと「アラレ」が落ちていました。でも「啓蟄」も過ぎた
ので、今後は本格的な春に向かって一直線です。

もう冬眠の季節でもないので、巣穴から久し振りに顔を覗かせて
周囲をきょろきょろと見まわしながら、さて、どうしょうかと思案
しているのが、私の実態とも言えそうです。
待望の春。閑居しているのももったいないことですし、それは私の
主義にも相容れません。とはいえ、何をするかが問題です。

先日、奈良の二上山に一人で登りました。初春の一日、汗を出しての
良い運動にもなりました。

「ももづたふ磐余の池に鳴く鴨を けふのみ見てや雲かくりなむ」
                   (万葉集巻三 416番)

「うつそ身の人なる我や明日よりは 二上山をいろ背と吾が見む」
                   (万葉集巻二 165番)

姉弟の悲劇の歌なのですが、そらんじている歌を口ずさみながら、
この国のはるかな昔の出来事に思いを馳せたりして、登り切り
ました。いつか機会を作ってまた登ればと思ってもいます。

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