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西行辞典

件名: 西行辞典 第373号(180615)
2018/06/15
には、10代からの歴史が受けとめられている。」
         (窪田章一郎氏著「西行の研究」から抜粋)

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       ◆ みるめ ◆

【みるめ】

「海松」と書いて「みる」と読みます。海草の一種です。
「みるめ」は「みる」と同義で「海松布」「海松藻」と表記
します。食用にしていました。
他には男女が会うことの意もあります。
古今集では「見た目」のことを言う「見る目」と海産物の「みるめ」
とを掛け合わせている歌があります。

 しきたえの枕の下に水はあれど 人をみるめは生ひずぞありける
                 (紀友則 古今集595番)

 早き瀬にみるめおひせば 我が袖の涙の河にうゑましものを
               (読人しらず 古今集531番)

また「海松色=みるいろ」というのがあって、染色の色の一つです。
黒色を基調とした萌黄色を言います。だから「みるめ」という名詞は
歌人たちもよく知っていたものと思います。  

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01 いかにせんこむよのあまとなる程にみるめかたくて過ぐる恨を
          (岩波文庫山家集155P恋歌・新潮708番)

○こむよのあま

来む世で、来世には海人として生まれ変わるということ。

○みるめかたくて

海草の「海松布ーみるめ」と「見る目」を掛けています。
見た目が良くないということではなくて、再会するために時間が
かかり、早く逢うのは難しいという意味のようです。

(01番歌の解釈)

「どうしょう。来世は海人に生れ変るとしてそれまでの間、逢う
ことがむずかしくて過ぎる恨みを。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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02 磯菜つまんいまおひそむるわかふのりみるめきはさひしきこころぶと
          (岩波文庫山家集116P羇旅歌・新潮1381番)

 新潮版では以下です。読みも記述します。

磯菜摘まん 今生ひ初むる 若布海苔 海松布神馬草 鹿尾菜石花菜  

いそなつまん いまおひそむる わかふのり みるめぎばさ ひじきこころぶと

○磯菜

磯に自生する海草のこと。

○わかふのり

生えたばかりの布海苔のことです。少し赤色の海苔で、昔は接着剤
として糊の原料にもなったようです。
 
○みるめ 前述参照

○きはさ

岩波書店の古語辞典、大修館の「古語林」にも載っていません。
和歌文学大系21や新潮日本古典集成山家集では「神馬草」と表記
しています。
ネットでは「神馬藻」「神馬草」として(じんばそう)と読み、
海草のホンダワラのこととあります。
この神馬草が(きはさ・ぎばさ)と呼ばれていたのは、東北の山形県
などであり、庄内地方の方言とのことです。
この方言がなぜ西行の歌に取り入れられたのかは不明です。

○こころぶと

天草(てんぐさ)の異称。天草を煮詰めて加工したものが「ところてん」
です。

(02番歌の解釈)

「さあ、今生え初めた海藻を採ろう。若布海苔・みるめ・
ほんだわら・ひじき・てんぐさ等を。」
           (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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       ◆ むかはし◆

【むかはし】

岩波文庫山家集では「むかはし」の「し」の横に(らイ)と記述が
あります。新潮版山家集や和歌文学大系21、西行全家集では当該
箇所は「むかはら」となっていますので、ここでも「むかはら」と
解釈します。

古語辞典によると「むかは・る」(自ラ四)とあり、「因果が巡って
くる。報いがくる」の意としています。

この言葉から派生したものと思いますが江戸時代に使われていた
らしい「むかはり」があります。
意味は一年、または一か月が経巡ってくることを指します。

それより古く、日本書記にも「むかはり」という言葉があって、
「身代わり・人質」を表わすそうですから、時代とともにその意味が
変遷した言葉の一つなのかもしれません。

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01 むかはしは我がなげきのむくいにて誰ゆゑ君がものをおもはむ
     (岩波文庫山家集152P恋歌・新潮667番・西行上人集・
                   山家心中集・夫木抄)

 むかはらば われが嘆きの 報いにて 誰ゆゑ君が ものを思はん
               (新潮古典集成山家集667番)

○むくいにて

仏教的な因果応報の思想に基づいていると考えますが、三句までの
上句と下句との関連性が分かりづらい歌ではないかと思います。

○君がものをおもはむ

なんだか呪詛的な響きさえ感じますが、これは女性の立場から過去に
関係のあった男性に対して「いずれ報いをうけるだろう」という解釈も
成立するのかもしれません。

(01番歌の解釈)

「もし因果はめぐり同じことが起るとしたら、自分を嘆かせた報いで、
今度は誰によって恋しい人が同じ嘆きをするであろう。」
           (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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       ◆ むぐら・葎 ◆

【むぐら・葎】

雑草のアカネ科のヤエムグラ属・フタバムグラ属などの総称です。
ヤエムグラ・キクムグラ・ヤマムグラ・クルマムグラなどの10種ほどが
あります。この他に、クワ科にアラハナソウ属のカナムグラなども
あります。歌に詠まれている季節が秋の終わり頃、霜の降りる頃の
歌もありますから、葎の種類までは判明しません。寒くなった季節の
葎はクワ科のカナムグラの可能性もあると思います。

歌では、葎は荒れ果てて寂しい光景の例えとして使われます。
西行の葎歌は9首あります。

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      嵯峨に住みける頃、となりの坊に申すべきこと
      ありてまかりけるに、道もなく葎のしげりければ

01 立ちよりて隣とふべき垣にそひて隙なくはへる八重葎かな
         (岩波文庫山家集190P雑歌・新潮471番)

○嵯峨

京都市右京区にある地名。西行は嵯峨に庵を構えていたことは確実
です。二尊院境内には「西行庵跡」の碑があります。

○となりの坊

誰の房なのか、誰が住んでいたか不明です。

○まかりける

動詞「まかる」の連用形です。出る、行くという言葉の謙譲語・
丁寧語として使われます。

西行歌にはたくさんの「まかり」が使われています。ほぼ同じ行為を
表す「行く」「参る」「詣でる」「まかる」を使い分けているのは、
それなりの必然があったからでしょう。
西行本人の歌に対しての感覚や言語センスに基づきながら、人物や
事象との距離感がいくつかの言葉を使い分けた原因ではないかと
思います。
また、歌の韻律になじみにくいと思われる「まかる」の用法は、ほぼ
詞書に用いられています。それも西行の見識の一つでもあったのでは
ないでしょうか。

○ひま・隙

基本的には「すきま」のこと、空間のことです。
物と物との切れ間のこと、物事と物事の切れ間のこと、心の中の
すきまのことなども「ひま」という言葉で表わされます。
さらには「手抜かりの無いように準備すること」や、「人と人との
関係が疎遠になること」なども意味していて、多様な用法があり、
解釈に戸惑う言葉であるとも言えます。

現代使われている「暇がある」という、時間的な余裕を表す用い方も
当時からされていました。「暇」はまた「暇乞い=いとまごい」と
いう言葉でも知られるように、人と人との関係性の断絶をも意味
しますから、「ひま」という語彙は実に多様性に富んだ言葉であると
思います。
「ひま」の用法が一番拡大していたのは平安時代であり、以後は時代
とともに空間的な意味では用いられなくなったようです。

(01番歌の解釈)

「隣の僧坊との境の垣は隣を訪れるのに立ち寄る必要があるのに、
八重葎が隙間なくびっしり繁茂していて、しばらく往来がなかった
ことが思われた。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

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     山家夏ふかしと云へることをよみけるに

02 山里は雪ふかかりしをりよりはしげるむぐらぞ道はとめける
             (岩波文庫山家集236P聞書集71番)

○雪ふかかりしをり

山里における葎の繁茂の状態を、積雪と対比させています。植物の
雑草の生命力の旺盛さなどを、あるいは考えた上での歌かもしれ
ませんが葎それ自体を詠んでいるわけではありません。

(02番歌の解釈)

「山里は雪が深かった時よりは、夏になって繁る葎の方が道は
止めるものだったよ。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

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  (後記)

 磯菜つまんいまおひそむるわかふのりみるめきはさひしきこころぶと
          (岩波文庫山家集116P羇旅歌・新潮1381番)

今号紹介歌の中にある海藻の「きはさ」を食する機会がありました。
その名も「ぎばさ定食」。以前にも同じ飲食店で食した経験があります。
ご飯の上にハマチやイカなどの他の魚類とともに乗っている丼物ですが、
味付けが良いのか、美味と感じました。栄養価も高いものらしいです。
「きはさ」は「アカモク」として流通、販売されてもいます。

それにしても平安時代当時に食用にされていた海藻が現在も食されて
いることに、かすかな驚き
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