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西行辞典

件名: 西行辞典 第377号(180810)
2018/08/10

います。この卓見に私も賛同します。いずれにしても為忠の子息で
あることに間違いはないでしょう。

西行上人集では「相空入道大原にてかくれ侍りたりし」と詞書が
あります。いつ頃出家し没したのか不明ですが、出家後は大原に
住んでいたことが分かります。

「想空」は他に210ページの詞書にも名前があります。また残集
13番の「静空」も「想空」と同一人物ともみなされます。

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      あづまやと申す所にて、時雨ののち月を見て

03 神無月時雨はるれば東屋の峰にぞ月はむねとすみける
 (岩波文庫山家集122P羇旅歌・新潮1111番・西行物語・夫木抄)
 
○あづまやと申す所
 
地名です。和歌山県から奈良県にかけての大峰修行の時の靡(なびき)
の一つです。靡とは行場のことをいい、大峰には75箇所の靡があります。
ただし西行の時代の靡と現在の靡には違いがあります。
「あずまや」は第16番の奈良県十津川村にある四阿宿を指します。

○神無月

陰暦10月の異称です。現在の12月初旬から下旬にかけての頃。

○むねとすみける

「むね」は前述したように、主、中心、というほどの意味です。峰の
中心として月は神々しく澄んで(住むを掛ける)いるということ。

(03番歌の解釈)

「初冬10月の時雨が晴れると、四阿宿の尾根に出番を待っていた主人
公のように美しく澄んだ月が出る。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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       ◆ 村立・むらだち ◆

【村立・むらだち】

「叢立ち・群立ち」群がり立つこと。草木が群生するようす。
             (大修館書店「古語林」から抜粋)

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01 聞かずともここをせにせむほととぎす山田の原の杉の村立
     (岩波文庫山家集46P夏歌、263P残集・御裳濯河歌合・
              新古今集・御裳濯集・西行物語)

○せにせむ

「瀬にせむ」と書き「瀬」は、拠って立つ場所を表します。
「立つ瀬がない」という場合の「瀬」と同義です。
「せむ」の(せ)はサ行変格活用「す」の未然形。(む)は助動詞
(む)の終止形。「せむ」で(しよう・したい)という希望なり意志
なりを表します。
「せにせむ」で(場所としよう)(ここにしたい)という意味です。
 
○山田の原

伊勢神宮外宮のある一帯の地名。外宮の神域。古代から山田の町の
人たちと外宮は密接に結びついてきました。

○杉の村立

杉の木が林立している状態のこと。

(01番歌の解釈)

「たとえ鳴く声をきかなくても、ここを時鳥を待つ場所にしよう。
山田の原の杉の群立っているこの場所を。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

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      堺花主不定

02 散りまさむかたをやぬしに定むべきみねをかぎれる花のむらだち
         (岩波文庫山家集235P聞書集61番・夫木抄)

○堺花主不定

嶺の境に拮抗して咲く桜の木は、どちらが花の主なのだろうか…
という発想で詠まれた歌。

○散りまさむ

花びらの散るのがどちらの山からの方が多いかということ。
より多くの花びらが散り敷いているのは、どの木かということ。

○かたおやぬし

この言葉は「かた=方」「お=格助詞」「や=係助詞」「ぬし=主」
に分かれます。「かたおやぬし」という名詞ではなく、片一方が勝ち、
つまりは花を多く散らした峯のほうが花の主というほどの意味です。
なんだか説得力のない表現です。

○花のむらだち 

一群の桜の樹のこと。ひとつの峯に咲き誇っている桜の樹々のこと。

(02番歌の解釈)

「より多く散る方を持ち主に定めるのがよいだろう、峰の堺を
区切っている花の群立は。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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       ◆ むら鳥 ◆

【むら鳥】

群がっている鳥。

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01 をりかくる波のたつかと見ゆるかな洲さきにきゐる鷺のむら鳥
 (岩波文庫山家集167P雑歌・新潮979番・西行上人集・山家心中集)

○をりかくる波

寄せては返している波の運動。

○洲さきにきゐる
 
「洲=す」とは川や海の水流の作用によって土砂などが運ばれて、
それが堆積して水面上に出たものを言います。
三角州、中洲などと言います。
その洲の先端のほうに白鷺が飛んできて群れている状態を指します。

○鷺のむら鳥

群れている鷺のこと。

(01番歌の解釈)

「寄せては返す白波が立っているかのように見えることだ。
鷺が群れ来ている様子は、何といっても。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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02 あさかへるかりゐうなこのむら鳥ははらのをかやに声やしぬらむ
          (岩波文庫山家集173P雑歌・新潮1012番)

○あさかへる

「朝、帰る」と「朝、孵る」説があって、特定できません。

○かりゐうなこ

不詳です。雁の子のことかと思われます。

○はらのをかや

不詳です。書写した人のミスの可能性も考えられます。

(02番歌の解釈)

「今朝孵化したばかりの雁の子たちは、今頃原の岡屋で鳴いて
いるのだろうか。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

「難解。朝帰ってゆく雁の(の子?)の群は、「はらのをか山」
越えたことであろうか、の意か。」
           (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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ことりどもの歌よみける中に

03 聲せずと色こくなると思はまし柳の芽はむひわのむら鳥
          (岩波文庫山家集167P雑歌・新潮1399番)

○思はまし

「思は+まし」で 「思ふ」の未然形+反実仮想の助動詞「まし」
の終止形の接続した言葉。
「おもうだろう」というほどの意味です。

○芽はむ

(はむ)は「食む」と表記して食べること。芽を食べること。

○ひわ

アトリ科の小鳥の総称とのことです。翼長10センチ未満で、マヒワ・
カワラヒワ・ベニヒワの三種があるそうです。
渡り鳥で、冬に日本に渡来するようです。
京都で枯木に留まっていたカワラヒワを目撃したことがあります。

○むら鳥

群鳥のこと。ヒワの群のこと。

(03番歌の解釈) 

「鳴き声が聞こえなくても羽の色が濃くなったと思うだろう。
鶸の群は柳の芽を食べているが、その芽が春も深まり緑濃く
なってきたので。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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  (後記)

「西行辞典」は創刊号発行以来、本日で13年になります。早いと
言えば早いものです。2002年4月15日創刊の「西行の京師」からは
16年余になります。
この間、必ずしも平穏無事であったわけではないのですが、顧み
てもよくぞ続いているものだと私自身も思います。
西行に関係することは細大漏らさず記述したいという当初の意図は
ある程度は達成されつつあると思いますが、あるいは必要のない
ものまで項目化し過ぎていて、その分、煩雑になっているとも言え
そうです。
振り返りみても創刊時代は仕事も持っていて、十分な考察を重ねた
とは言えません。また項目化という特殊性のある編集のために重複
を厭わずに書き連ねてきました。ゆえに何度も記述した歌もあれば、
一度も紹介していない歌もあります。
今の編集姿勢で一応の完成を見てから、状況が許せば一度も記述して
いない歌も紹介したいものだと思っています。

今月7日は立秋。とりわけ暑さの厳しい炎熱の夏でしたが、これから
徐々に過ごしやすい季節となります。まだまだ残暑も続きます。
読者の皆様のご健勝を願いあげます。

16日は大文字の送り火。今年は友人宅で見ることにしています。

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◎ 「西行辞典」第377号 2018年08月10日発行

   「西行辞典創刊号発行 2005年08月10日」 

◎ 発行責任者 阿部 和雄
   http://sanka11.sakura.ne.jp/

◎ 発行システム インターネットの本屋さん「まぐまぐ」を
 利用させていただいています。
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