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西行辞典

件名: 西行辞典 第346号(170328)
2017/03/28
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      ◆◆◆◆  西行辞典  ◆◆◆◆
                        
                  vol・346(不定期発行)
                   2017年03月28日号

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         今号のことば    

1 まき・杉 (2)     
       2 真菰
        3 正木・まさき

     ましら→第175号「寂然 (02) 贈答歌(02)」参照
      ま菅→第191号「すげ・菅・ま菅」参照

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        ◆ まき・杉 (2) ◆

【まき・杉】

「真木・槙」という漢字を当てて、スギやヒノキなどのスギ科の
植物を言います。
「まき」とは杉の木も言いますが、これとは別に「杉」の樹の歌も
6首あります。従ってここにある「まき」は杉以外のヒノキ科の樹
なのかもしれません。歌では「杉」と「真木」の厳密な区別が
なされて詠まれているのかどうかわかりません。
古語辞典によると「真木」とはスギやヒノキ以外に建築用材として
用いられている樹も指すようです。立派な樹の意味があるようです。

「杉」も項目化していませんから、ここで記述しておきます。
6首あります。前号で5首出しましたから、今号は残りの一首のみです。
尚、前号の「杉」03番歌の、杉の皮を(いけはぎ)にすることは、
物理的に不可能のようです。

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【杉】

06 よろづ代を山田の原のあや杉に風しきたててこゑよばふなり
       (岩波文庫山家集279P補遺・宮河歌合・夫木抄)

○よろず世

万世のこと。いつの時代、いつの世であっても……
限りなく長く続く時代のこと。

○山田の原

伊勢神宮外宮のある一帯の地名。外宮の神域。古代から山田の町
の人たちと外宮は密接に結びついてきました。

○あや杉

植物の杉の一種。綾杉。神事にも用いられていたようです。
広辞苑では「ヒムロ」の異称とあり、「ひむろ=姫榁」は、
「ヒノキ科の小喬木。高さ3〜4メートル。サワラの園芸変種で、
枝は繁く葉は線形で軟かい。庭木として用いる」と記述されて
います。
九州などで植栽されているアヤスギは高木で建築材として用いら
れていますので「アヤスギ」と「綾杉」は別種だろうと思います。
(西行山家集全注解)では「イワネスギ」のこととあります。

小学館発行の「日本国語大辞典」では、葉がよじれて綾になって
いるところから綾杉と名付けられたとあります。
西行歌の「あや杉」も、どちらの「アヤスギ」か断定はできない
と思います。西行歌は植物学上の固有名詞ではなくて、宗教上の
意味を付託された特別な杉という意味ではないかと愚考します。

楽器の三味線の胴の内側に彫刻された紋様も「綾杉」といいます。
九州福岡市香椎宮のご神木のあや杉は、とても立派な高木でした。

○しきたてて

強風がしきりに吹き立っていること。

【しきまく】

(敷き渡す)などの(敷き)とは違って、この場合は(頻り)の
(しき)です。(しきまし)(しきまき)などの用例があります
ので、(しきりにまくれ上がる)という解釈で良いと思います。

【しきりたす】

「しきり」は「頻り」のこと。繰り返して、うち続いて、盛んに、
などの意味があります。しきりに出るようになったということ。

(06番歌の解釈)

「よろず代を思わせて山田の原(外宮に近い地)にあるあや杉
(杉の一種イワネスギ)の梢に風がしきりに吹きたてて(外宮
近くの老杉、風が常にひびきを立て、万代までつづくことを思
わせていること)大声を出して、よびつづけているのである。」
        (渡部保氏著「西行山家集全注解」から抜粋)

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       ◆ 眞菰 ◆

【眞菰】

高さ1メートルから2メートルにもなるイネ科の多年草です。沼沢地
に自生し、葉はイネ科らしく線形です。
種や茎は食用になり、現在でも調理されているようです。
茎は筵などの材料としても使われます。他に眉墨、お歯黒にも用い
られました。
「菰=こも」は真菰の古名です。
              (講談社「日本語大辞典」参考)

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01 五月雨の晴れぬ日數のふるままに沼の眞菰はみがくれにけり
           (岩波文庫山家集50P夏歌・新潮224番)

○五月雨

現在では6月の梅雨のことを言います。

○ふるままに

五月雨の「降る」と日数の「旧る・経る」を掛け合わせています。
掛詞とは、一つの言葉に二つ以上の意味を持たせる修辞法ですから、
普通は意味を明確に表す漢字表記は用いられません。

○みがくれに

真菰の草が隠れた事ですが、水嵩が増えて水に隠れたことを言います。
「水隠れ」と「身隠れ」を思わせます。

(01番歌の解釈)

「五月雨が降り続き、晴れる日のないままに、水かさの増した
沼の真菰はすっかり水に隠れてしまったよ。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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02 みな底にしかれにけりなさみだれて水の眞菰をかりにきたれば
           (岩波文庫山家集50P夏歌・新潮221番) 

○みな底

水底のこと。

○さみだれて

ここでは五月雨に「然乱れて」ということを掛けています。
真菰が水底で乱雑に折り敷いている状態をも言います。

○かりにきたれば

刈り取りに来ること。
本格的な夏の前の、現在の6月中頃には刈り取る習慣だつたようです。

(02番歌の解釈)

「五月雨が降り続くこの頃、御津の真菰を刈りに来ると、すっかり
水かさが増し、真菰は水底に入り乱れて敷いたようになっているよ。」
             (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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03 水たたふ入江の眞菰かりかねてむな手にすつる五月雨の頃
      (岩波文庫山家集49P夏歌・新潮207番・宮河歌合)

◎新潮版では「すつる」は「過ぐる」となっています。

○むな手にすつる

和歌文学大系21では「むな手」は「空手」としています。
刈り取ることをあきらめて、少しも収穫しないで帰ることです。
「すつる」「捨てる」と思わせますので、新潮版の「過ぐる」が
ふさわしいと思います。

(03番歌の解釈)

「降り続く雨で水が一ぱいになった岩間の真菰を刈りかねて、
なすこともなく過ごす五月雨の今日この頃である。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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04 沼水にしげる眞菰のわかれぬを咲き隔てたるかきつばたかな
           (岩波文庫山家集41P春歌・新潮162番)

○真菰のわかれぬを

真菰と杜若は葉が似ているので、どちらか特定できないということ。
葉の状態では見分けられないということ。

○かきつばた

植物名。アヤメ科の多年草。杜若、燕子花とも書きます。
5月から6月頃にかけて、水際や湿原に咲きます。
アヤメ科の中では最も古くから親しまれてきた花で、万葉集には
7首の歌が詠まれています。

(04番歌の解釈)

「沼に茂っている真菰とよく似ているので、どれがかきつばた
なのか区別がつかなかった。でも今、花をつけることによって、
かきつばたはその区別をはっきりさせたよ。」
             (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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05 かり残すみづの眞菰にかくろひてかけもちがほに鳴く蛙かな
       (岩波文庫山家集40P春歌・新潮1018番・夫木抄)

○みづの真菰

(みず)については(御津)(美豆)などの地名、あるいは河の
名称などの諸説があります。地名とするなら山城の国の歌枕の地
である美豆説が有力です。美豆は男山の少し東北、淀の東に当たり
ます。川は木津川が流れています。
(真菰)は イネ科の多年草。高さ2メートルほどにもなりますから、
蛙の隠れ場所としては最適でしょう。

○かくろひて

隠れること。隠れていること。

○かけもちがほ

新潮版では「かげもちがほ」と、なっています。陰を持っている
様子で、という意味です。
ところがこれは説得力が無いように思います。「人に発見されない、
陰が自分を守ってくれる」のであれば、わざわざ居場所を告げる
かのように鳴かないでしょうに・・・。

(05番歌の解釈)

「刈り残したみずの真菰に隠れて、自分を守ってくれる陰を持つ
と得意そうに鳴く蛙であるよ。」
           (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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06 五月雨のをやむ晴間のなからめや水のかさほせまこもかり舟
       (岩波文庫山家集50P夏歌・新潮222番・夫木抄)

○をやむ晴間

(をやむ)は「小止む」という意味で、一時的な晴れ間を言います。

○水のかさほせ

「水嵩を干せ」と「水に濡れた笠を干せ」の二通りの解釈が成立して
います。水量を減らすという「水嵩を干せ」は意味として通じにくく、
私は「水に濡れた笠を干せ」の解釈が自然だと思います。
(水の)は山城の歌枕である「美豆」を掛け合わせ
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