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西行辞典

件名: 西行辞典 第347号(170421)
2017/04/21
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      ◆◆◆◆  西行辞典  ◆◆◆◆
                        
                  vol・347(不定期発行)
                   2017年04月21日号

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          今号のことば    

         1 まさき・正木
         2 槇
         3 ますほ・ますを
         4 ませ
        
     ますらを→第05号「通草」参照

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       ◆ まさき・正木 ◆

【まさき・正木】

「柾・正木と表記。ニシキギ科の常緑低木。高さ3メートル程度。
海岸に多く自生する。庭木、生垣用に用いられる。
葉は厚く長楕円形。6月頃に淡緑色の四弁花を多数つけ、冬に
球形の果実が開裂して赤橙色の種子を出す。」
             (講談社「日本語大辞典」を参考)

ことば通りに解釈するなら、この「マサキ」のことです。「マサキ」
は京都市内でもよく見かける植物です。笠取山は海とは遠く隔たって
いますが、「マサキ」は海辺ではなくとも生育します。

「まさき・正木」歌にある「まさき・正木」は以上のニシキギ科の
マサキではなく、蔓性植物のテイカカズラ、サンカクヅル・ツル
マサキ(マサキツル)などが該当するようです。「まさき」は蔓性
植物「まさきのかづら」の略称として各解説書では解釈されてきま
した。しかし今号記述の04番歌のみが蔓性植物の「マサキ」と容易に
解釈できますが、他の3首の場合には疑念が残ります。

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     かつらぎを尋ね侍りけるに、折にもあらぬ紅葉の
     見えけるを、何ぞと問ひければ、正木なりと
     申すを聞きて

02 かつらぎや正木の色は秋に似てよその梢のみどりなるかな
         (岩波文庫山家集119P羇旅歌・新潮1078番・
                    西行物語・夫木抄)  

○かつらぎ

この歌の場合は地名の「葛城」に植物の「まさきのかづら」を
想起させるように詠まれています。

地名を表す場合は「かつらぎ」と読んで良いのですが、植物の
歌の場合は正しくは「かづらき」です。地名の場合も古くは
「かづらき」とのことです。
 
「葛城」は地名で固有名詞です。奈良盆地の西南部一帯を指し、
古代豪族の葛城氏のゆかりの地です。
「葛城の山」は標高959メートル。金剛山の北側に位置します。
「葛城の神」は葛城山の奈良県側にある一言主神社の一言主神を
指しています。役行者小角が金剛山から吉野に石橋を架けるために
一言主の神も使役したのですが、あまりの仕事の遅さに腹を立てて、
一言主の神を捕縛して谷底に捨ててしまった、という伝説もあります。
また、古事記の雄略天皇の条では天皇は一言主の神にひれ伏したと
いうことが書かれています。

○折にもあらぬ紅葉

秋の紅葉ではなくて他の季節の紅葉。「みどりなるかな」で緑色を
強調することによって季節は春から初夏を思わせます。

○正木なり

どの植物を指すのか確定していないようです。
初冬にも紅葉するけど初夏にも紅葉するカズラのようです。
テイカカズラなど諸説ありますが、テイカカズラは全体的には紅葉
しないので、別種のカズラのようです。ただしテイカカズラのごく
一部の葉がきれいに紅葉しているのは見かけたことがあります。

(01番歌の解釈)
 
「ここ葛城山ではまさきのかずらの色は秋に似て紅葉し、他の
木の梢は緑であることよ。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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03 神人が燎火すすむるみかげにはまさきのかづらくりかへせとや
            (岩波文庫山家集279P補遺・夫木抄) 

○神人

神に仕える人。神社の神官。祭主、禰宜、神主などのことです。
この歌の場合は、神楽を奏する人も言うようです。神官が神楽舞を
演じていたとも解釈できます。

○燎火(にわび)

神楽を奏する場所を浄化し、明かるくするための焚き火のこと。

○みかげ

「御影」という言葉は天皇を敬って言う場合もあります。
この歌にある「みかげ」は単純な「光と影」の「影」ではなくて、
深遠な意味が込められているような感じがします。

○まさきのかづら

どの植物なのか特定されていません。いずれにしても蔓性植物ですが、
そのうちの「テイカカズラ」や「マサキツル」などが可能性のある
植物として考えられています。
個々の植物名ではなくて蔓性植物の総称とも考えられます。

尚、テイカカズラは藤原定家と式子内親王の絡みで名付けられた
植物名であり、西行の在世時代にはこの植物名は当然にありません。

○くりかへせとや

「深山には霰降るらし外山なる正木の葛色づきにけり色づきにけり」
という神楽歌の最後の部分「色づきにけり」の繰り返しを言っている
ものでしょう。

(03番歌の解釈)

「神主が庭火を盛んに焚いている神のみかげは、まさきのかづら
をくるようにくりかえせというのであろうか。」
          (渡部保氏著「山家集全注解」から抜粋)

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04 松にはふまさきのかづらちりぬなり外山の秋は風すさぶらむ
           (岩波文庫山家集89P秋歌・新潮欠番・
        御裳濯河歌合・新古今集・御裳濯集・玄玉集)  

○ちりぬなり

この歌にある「ちりぬなり」という表現などから見て、葉は大型
のものを思わせます。テイカカズラなどのごく小さな葉を言う
には、ふさわしくない言葉でしょう。這うように生える蔓性の
葛の葉が「散る」というのも少しくふさわしくない気もします。

○外山

人里に近い山のこと。里山、端山のこと。奥山、深山の対語。
現在は「里山」という言葉がよく用いられます。「外山」の
言葉のある歌は04番歌以外には4首あります。   

01 雪わけて外山をいでしここちして卯の花しげき小野のほそみち
             (岩波文庫山家集236P聞書集70番) 

02 秋しのや外山の里や時雨るらむ生駒のたけに雲のかかれる
           (岩波文庫山家集90P冬歌・新潮欠番・
          宮河歌合・新古今集・玄玉集・西行物語)  

03 時鳥ふかき嶺より出でにけり外山のすそに聲のおちくる
           (岩波文庫山家集47P夏歌・新潮欠番・
       御裳濯河歌合・新古今集・御裳濯集・西行物語)  

04 雪分けて外山が谷のうぐひすは麓の里に春や告ぐらむ
          (岩波文庫山家集22P春歌・新潮1065番)

(04番歌の解釈)

「松の木に這いかかっている正木のかづらの葉は散ってしまったよ。
もう秋も終りだから、さだめし里近い山の秋のこのごろは、風が
吹き荒れることであろう。
          (渡部保氏著「山家集全注解」から抜粋)

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       ◆ 槇 ◆

【槇】

前号の「真木」と同義で、漢字表記が違うだけです。
「真木」の項で、うっかりして「槇」を忘れていましたので今号で
補筆します。歌番号も前号から続きます。

「真木・槙」という漢字を当てて、スギやヒノキなどのスギ科の
植物を言います。
「まき」とは杉の木も言いますが、これとは別に「杉」の樹の歌も
6首あります。従ってここにある「まき」は杉以外のヒノキ科の樹
なのかもしれません。歌では「杉」と「真木」の厳密な区別が
なされて詠まれているのかどうかわかりません。
古語辞典によると「真木」とはスギやヒノキ以外にも建築用材として
用いられている樹も指すようです。立派な樹の意味もあるようです。

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07 槇の屋の時雨の音を聞く袖に月ももり来てやどりぬるかな
     (岩波文庫山家集95P秋歌・新潮欠番・西行上人集)
 
○槇の屋

和歌文学大系21では「真木の屋」としています。「槇」の漢字表記は
岩波文庫山家集校訂者の佐佐木信綱博士が選択した文字です。
「真木」「槇」のどちらでも差し支えありません。
ともあれ「槇の屋」は山中の急こしらえの粗末な草庵ではなくて、
ある程度は家としての体裁の整った建築物だと思わせます。
屋は屋根をも言い、草庵のように粗末な木組みの家なのに、屋根のみ
真木を使った建築物というのは、ちょっと考えられないことです。

○聞く袖に

時雨の音を聞いて過ごしているという状況に、着物の袖も涙で濡れて
いることを暗示させます。時雨自体は家の中に洩れ落ちることはない
けど、涙で濡れた袖に洩れ届いた月の光が宿るということ。
「聞く袖」だけを取り上げるなら不可解な表現ですが、時雨が暗喩と
して涙を暗示させていて、「時雨」+「袖」が和歌の共通認識として
人の持つ普遍的な哀れさを表しています。よって、「時雨の音を聞く、
袖」でなくてはならないものと思います。

(07番歌の解釈)

「真木で屋根を葺いた家に降るしぐれの音を聞いて涙に濡れた
わたしの袖に月の光が洩れてきて宿ったよ。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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08 夜もすがらささで人待つ槇の戸をなぞしもたたく水鷄なるらむ
            (岩波文庫山家集273P補遺・雲葉集)
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