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西行辞典

件名: 西行辞典 第351号(170702)
2017/07/02
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      ◆◆◆◆  西行辞典  ◆◆◆◆
                        
                  vol・351(不定期発行)
                   2017年07月02日号

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         今号のことば    

        1 まだ・・・(02)
        2 まつめる
        3 松浦の舟
        4 ま手
        5 まとい

まなべ→第169号「しはくの島」参照
眞野の萩原→第257号「萩(02)」参照
まんだら寺→第217号「ちぎり・契り (2)」参照
萬燈会→第294号「ふくる・更くる」参照

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       ◆ まだ・・・(02) ◆

【まだ・・・】

山家集でも「まだ」という言葉は、下の用例歌でも理解できるように、
現在と同じ意味で用いられています。

 霞まずは何をか春と思はましまだ雪消えぬみ吉野の山
            (岩波文庫山家集19P春歌・新潮11番・
              西行上人集追而加書・続後撰集)

「まだ」は「今もなお・・・」「未だに」という意味で、現在時点
でも以前の状態が続いている様子を表しています。それ自体は平易な
言葉でもあり、わざわざ項目化していないのですが、少し気になる
言葉もあり、4首のみ記述します。

04番歌の「まだ」は岩波文庫山家集にたくさんある校正ミスの一つ
だと思います。正しくは濁点のない「また」であり、和歌文学大系21
でも新潮日本古典集成でも「また」としています。
濁点のあるなしの違いですが歌の意味は異なってきます。

ただし句読点は明治時代になって使われだしたもので当然に西行
時代は「だ」はなく、「た」の使用です。岩波文庫改訂版の校正
ミスと記述しましたが、「また」「まだ」のどちらも意味が通じ
ますし、ミスと言い切るには微妙な部分であり言葉です。あるいは
佐佐木信綱博士が確信を持って採用した言葉なのかもしれません。

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02 まだきより身にしむ風のけしきかな秋さきだつるみ山ベの里
          (岩波文庫山家集54P春歌・新潮250番)

○まだき

副詞。早くも、もう…という意味。まだその気持ちや、時期に到達
していないのに…ということ。

これとは別に下の歌に「いまき」があります。

 鳥邊野を心のうちに分け行けばいまきの露に袖ぞそばつる
          (岩波文庫山家集192P雑歌・新潮757番・
                西行上人集・山家心中集)

「いまき」とは古来に大陸から新しく日本にやって来た人たちを言い、
京都の平野神社では「今来神」を祀っています。
ただしこの歌の「いまき」は次のように解釈されています。

新潮版は(いぶき)、板本の類題本では(いまき)、西行法師家集
では(いそぢ)、和歌文学大系21では(伊吹)としています。
(いぶき)であるとしても(息吹)では意味が通りません。

(伊吹)は伊吹山のことではなくて植物の名詞としての伊吹
(ヤマヨモギ)を指しているとのことです。(和歌文学大系21)
百人一首51番藤原実方の(さしも草)と同義。そして伊吹を息吹に
掛けていると解説されています。
ヒノキカシワのことを(伊吹)といいますが、ヤマヨモギを(伊吹)
と言うのは知りませんでした。

○風のけしき

風の吹き具合や寒暖などの状況のこと。

○秋さきだつる

まだ秋ではないのに吹いている風の中に、確かに秋を感じている
状況を言います。
五体の感覚が、自然の中で研ぎ澄まされているのでしょう。

(02番歌の解釈)

「風が吹くとまだ夏なのに秋風のように身に染みる。私の山家は
山深いので秋を先取りしているのだ。」
                (和歌文学大系21から抜粋) 

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03 道もなし宿は木の葉に埋もれぬまだきせさする冬ごもりかな
          (岩波文庫山家集92P冬歌・新潮494番)

○宿

山の中の草庵のことだと解釈できます。
十分な寝具などは、むろん無かったはずです。

○まだきせさする

「まだき」に「せさする=為さする」という言葉の複合語。
「まだき」は前述。
「せさする」は「せ+さす+る」の複合語。

「せ」は「為」の漢字を当て、サ行変格活用。動詞「す」の未然形。
「さす」は助動詞で下二段活用。多くの動詞の未然形につきます。
使役・尊敬の「さす」の連体形です。
「る」は受け身の助動詞。

混乱を招くかとも思いますので活用に触れてみます。

基本語 「さす」

させ(未然形)・させ(連用形)・さす(終止形)・さする(連体形)・
さすれ(已然形)・させよ(命令形)。

「まだきせさする」という言葉になった時には、「まだその時では
ないのに‥‥させられる」という意味になります。

「せさする」の用例は岩波文庫山家集に二例あり、もう一度は下の
詞書にあります。「新勅撰集」から補入した歌です。

      高倉院の御時、伝奏せさする事侍りけるに書き添へて
      侍りける

  跡とめてふるきをしたふ世ならなむ今もありへば昔なるべし
           (岩波文庫山家集278P補遺・新勅撰集)

もう一例、紀貫之の歌です。

 葦引の山の山もりもる山も紅葉せさする秋はきにけり
               (紀貫之 後撰集)

(03番歌の解釈)

「ここ山家においては、家はいうに及ばず道もすっかり落ち葉に
埋もれてわからなくなってしまい、まだ早いのに冬籠りをさせ
られることだなあ。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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04 行末の月をば知らず過ぎ来つる秋まだかかる影はなかりき
          (岩波文庫山家集80P秋歌・新潮356番・
                山家心中集・西行上人集)

○行末の月

これからの歳月を過ごすうちに見るであろう月のこと。

○秋まだ

「まだ」=これまでに起きていない事柄、達成されていないこと。
「また」=これまでに起きていた事々が、さらに、再び起こること。

「また」「まだ」のどちらでも意味が通じます。和歌文学大系でも
新潮日本古典集成でも「まだ」の意味が強いものとして解釈されて
います。

○かかる影

月影のこと。月光のこと。「かかる」は、「こんな・こういうような」
という意味の「斯かる」と、「空に懸かる月」の「懸かる」を掛け
合わせています。

(04番歌の解釈)

「今後どんな月を見るか知らないが、少なくともこれまでには、
こんなにも美しい秋月を見たことがなかった。」
                (和歌文学大系21から抜粋) 

「これから先、どのような名月を見るかわからないけれど、
今まで過ぎて来た秋には、このように美しい月を仰いだ
ことはかつてなかったよ。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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       ◆ まつめる ◆

【まつめる】

「待つ」に推量の助動詞「めり」の連体形「める」が接合した言葉。
「めり」は推定と婉曲を表しますが、それはどちらかに確実に区別
されるものとは言えません。下の歌の場合は婉曲表現というよりは、
推定の方が強いと言えるかもしれません。

「待っているだろう」という意味になります。

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01 きかで待つ人思ひしれ時鳥ききても人は猶ぞまつめる
          (岩波文庫山家集45P夏歌・新潮1465番)

○きかで待つ

ホトトギスの鳴き声を聞いていないので、聞きたくて待っていること。

○人思ひしれ

ホトトギスを擬人化しています。一度もホトトギスの鳴き声を聞いた
ことがなくて、それを待ち望んでいる人の気持ちを思いやってほしい
というホトトギスに対しての願望の言葉。

(01番歌の解釈)

「一度も聞かないで待っている人の気持ちをわかって欲しい、時鳥よ。
人というのは聞いてもまだ聞きたいと待ち続けるくらいなのだから。」
                (和歌文学大系21から抜粋) 

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       ◆ 松浦の舟 ◆

【松浦の舟】

現在の佐賀県、長崎県に渡る地域で栄えた集団に松浦党があります。
平安時代から歴史の表舞台で活躍した集団とも言えます。
松浦氏は江戸時代においても肥前の国の藩主でした。
海と隣接していたため、造船や航海術、さらには外交などにも長けて
いたようです。その松浦氏の船を言います。

「松浦佐用姫伝説」というのがあります。飛鳥朝の推古天皇時代に
新羅征討のため松浦の里に大伴氏の男が立ち寄り、彼と地元の佐用姫が
恋仲になります。
ところが新羅征討軍は新羅に向かって出港します。別れを悲しんだ
佐用姫は追えるはずもない船を追って、やがて死に至ったという
悲恋物語です。

この物語からヒントを得ての歌とも言えます。
万葉集巻五の871番前後には松浦佐用姫伝説から着想を得た歌が数首
並んでいます。

 「松浦懸佐用姫の子が領巾振りし山の名のみや聞きつつおらむ」
             (山上憶良 万葉集巻五8
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