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西行辞典

件名: 西行辞典 第357号(171111)
2017/11/11
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      ◆◆◆◆  西行辞典  ◆◆◆◆
                        
                  vol・357(不定期発行)
                   2017年11月11日号

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         今号のことば    

         1 みさび
         2 三島・みしまえ
         3 見し世・みしよ 01

みしめ→第171号「注連・しめ」参照
みすの山風→第121号「熊野・熊野御山・熊野詣」参照
簾貝→第293号「吹上」参照
みづ垣→第171号「注連・しめ」参照
みそぎ→第249号「ぬさ・幣」参照
見せがほ→第272号「春+霞 (2)」参照

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       ◆ みさび ◆

【みさび】

水に含まれている渋のこと。水の錆びのこと。要するに水垢です。

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01 みさびゐて月も宿らぬ濁江にわれすまむとて蛙鳴くなり
           (岩波文庫山家集40P春歌・新潮168番)

○みさびいて

水垢が水面に浮いている状態。

○月も宿らぬ

水面が汚れていて、月が水面に映り込まないこと。

○すまむとて

住もうと思って…。

(01番歌の解釈)               

「水あかが浮かんでいるために月影も宿らない濁江に、澄む月の
代りに自分が住もうと、かわずが鳴いていることである。」
           (新潮日本古典集成山家集から抜粋)
            
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02 月のためみさびすゑじと思ひしにみどりにもしく池の浮草
          (岩波文庫山家集61P秋歌・新潮1021番)

○みさびすゑじ

「水錆据えじ」で、この場合は水垢を発生させない、という意味。

○池のうき草

池に浮いている草。水面に漂っている草のこと。

(02番歌の解釈)

「月を美しく映すために水錆が生じないよう心がけていたが、
浮草が繁茂して池は一面に緑になった。これはこれで月が
出たら美しかろう。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

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      池上の月といふことを

03 みさびゐぬ池のおもての清ければ宿れる月もめやすかりけり
       (岩波文庫山家集72P秋歌・新潮320番・夫木抄)

○みさびゐぬ

池に水錆が浮いていないことを言います。「ゐぬ」は無いこと。

○めやすかりけり

漢字表記をすれば「目安かりけり」です。
「めやす」は形容詞ク活用です。「見た目に感じが良い、見苦しく
ない」という意味があります。
現在では「おおよその見当、一応の基準」という意味で「目安」は
使われますが、当時は上記のような意味でも用いられていました。

(03番歌の解釈)

「池に映った清澄な月光に浮雲がかかった、と思ったら
払い残した池面の水垢だった。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

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      同じこころを遍昭寺にて人々よみけるに

04 池にすむ月にかかれる浮雲は拂ひのこせるみさびなりけり
          (岩波文庫山家集72P秋歌・新潮322番・
             西行上人集・山家心中集・夫木抄) 

○遍照寺
         
「遍照寺」は下京区と右京区に現存しますが「大澤・広澤」の固有
名詞によって、右京区にある「遍照寺」と断定できます。
岩波文庫山家集では「遍昭寺」ですが、正しくは「遍照寺」です。

1600年代末葉に、この辺りを歩いて著した黒川道裕の「嵯峨行程」に、
「遍照寺の本尊不動、ならびに正観音及び寛朝の像は、池の南の方、
池の裏の小庵にあり」とあります。『都名所図会』参考。
この「小庵」が現在の「遍照寺」です。

もともとの遍照寺は広沢の池の北側にある浅原山(遍照寺山)の中腹に
ありました。花山天皇の勅願により、宇多天皇の孫にあたる寛朝
僧正が989年に開創したものです。
東寺真言密教広沢流の本源地として隆盛を極めていたこの遍照寺も
時代の流れの中で次第に衰退して行きました。

尚、六歌仙及び三十六歌仙の一人である遍昭僧正(816〜890)とは
何の関係もないようです。

○人々よみけるに

人々の個人名や、いつ頃開催された歌会なのかは分かりません。

○池にすむ

「すむ」は(澄む)と(住む)の掛詞です。

(04番歌の解釈)

「池の面に澄んだ姿を宿している月に、浮雲がかかって
いるように見えるのは、実は雲ではなく、池の面を払った際
残った水銹であったことだ。」
           (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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       ◆ 三島・みしまえ ◆

【三島・みしまえ】

三島江は摂津の国の歌枕です。淀川の河口近くの西岸にあり、
現在の大阪府高槻市三島江を中心としていた浦を指します。
三島・三島江・三島江の浦・三島の入江・三島川などの形で
地名が詠み込まれ、万葉集以来、薦や葦などのある情景を 
詠まれて来ました。

03番歌は摂津の国ではなくて近江の国の歌。ただし余呉湖周辺に
「三島」は確認できなく、従って掛詞として解釈するのは無理が
ありそうです。単純に「見し間」と解釈するべきでしょう。

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       知らせでくやしむ恋

01 吾が恋は三島が沖にこぎいでてなごろわづらふあまの釣舟     
          (岩波文庫山家集156P恋歌・264P残集12番・
               西行上人集追而加書・夫木抄) 

○三島が沖

(三島・みしま)の所在地は不明です。大阪府高槻市の「三島江」は
海ではなく淀川沿いにありますから、歌意とは若干適合しないように
思います。
 
○なごろ

なごろ=余波
風が静まってのちも、なおしばらくは立っている波。
             (岩波書店「古語辞典」から抜粋)    

風が荒く波が高く、潮のうねること。また、そのうねりのこと。
                 (広辞苑第二版から抜粋)

(01番歌の解釈)

「わたしの恋は、あたかも三島の沖に漕ぎ出して、うねりに進み
かねている海人の釣り舟のようなもの。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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02 風吹けば花咲く波のをるたびに櫻貝よるみしまえの浦
          (岩波文庫山家集171P雑歌・新潮1191番・
            西行上人集・山家心中集・夫木抄)

○花咲く波

打ち寄せた波が砕けて白い泡になっている状態を「波の花」と言い
ます。西行時代にもそういう言葉があったものでしょう。
古今集でも「伊勢」や「文屋康秀」に「浪の花」の歌があります。
参考までに山家集に「波と花」のフレーズのある歌を記述します。

 過ぐる春潮のみつより船出して波の花をやさきにたつらむ
          (岩波文庫山家集41P春歌・新潮170番)

 霞しく波の初花をりかけてさくら鯛つる沖のあま舟
       (岩波文庫山家集116P羇旅歌・新潮1379番)

 山もなき海のおもてにたなびきて波の花にもまがふ白雲
     (岩波文庫山家集168P雑歌・新潮995番・夫木抄)

 おもひいでに花の波にもながればや峯のしら雲瀧くだすめり
           (岩波文庫山家集249P聞書集185番)
 
 風吹けば花の白波岩こえてわたりわづらふ山がはのみづ
          (岩波文庫山家集272P補遺・新勅撰集)

 波とみる花のしづ枝のいはまくら瀧の宮にやおとよどむらむ
           (岩波文庫山家集279P補遺・夫木抄)


白波を花に見立てて桜貝の縁語としてはいますが「波の花」と
いうには微妙なズレを感じます。
もちろん、そのズレがあっても差し障りは感じません。

○波のをるたびに

「波の折るたびに」のこと。寄せては返す波の運動のこと。

○櫻貝・さくら貝

「浅海の砂底にすむニッコウガイ科の二枚貝。殻長約3センチ。
殻高約1.3センチ。
殻は扁平で薄く、桃色花弁状で光沢がある。貝細工用。
北海道から九州、朝鮮半島に分布。」
          (講談社刊「日本語大辞典」から引用)

桜貝の歌はもう1首あります。

 花と見えて風にをられてちる波のさくら貝をばよするなりけり
             (岩波文庫山家集234P聞書集56番)

(02番歌の解釈)

「風が吹くと花が咲いたように白波が幾重にも折れかえって見え
るが、その度ごとに桜貝が打ち寄せられる三島江の浦だよ。」
           (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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      我見人不知恋

03 余吾の湖の君をみしまにひく網のめにもかからぬあぢのむらまけ
 (岩波文庫山家集248P聞書集163番・西行上人集追而加書・夫木抄)

○余吾の湖

滋賀県にある余呉湖のことです。琵琶湖の北にあります。
賎が岳の古戦場で有名。

○君をみしまに

君を見ている間に・・・という意味です。「みしま」は「三
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