まぐまぐ!
バックナンバー

西行辞典

件名: 西行辞典 第358号(171203)
2017/12/03
************************************************************

      ◆◆◆◆  西行辞典  ◆◆◆◆
                        
                  vol・358(不定期発行)
                   2017年12月03日号

************************************************************

         今号のことば    

         1 見し世・みしよ 02
         2 水茎・水ぐき
         3 水こひ鳥 
         4 みすり
         5 御袖
6 みたけ・御嶽 01

************************************************************ 

       ◆ 見し世・みしよ 02 ◆

【見し世・みしよ】

過去に見て、なじんでいた時代。昔の頃のこと。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

   嵯峨野の、みし世にもかはりてあらぬやうになりて、
     人いなんとしたりけるを見て

04 此里やさがのみかりの跡ならむ野山もはてはあせかはりけり
         (岩波文庫山家集195P雑歌・新潮1423番)

○嵯峨・嵯峨野

東は太秦、西は小倉山、北は上嵯峨の山麓、南は大井川(桂川)
を境とするほぼ平坦な野。往古は葛野川(現桂川)の溢水による
沼沢地で、未墾地が大半を占めていたが、秦氏一族が川を改修し、
罧原堤(ふしはらつつみ)の完成によって田野の開拓が進み、
肥沃な地となった。
「三代実録」882年12月条には平安遷都後は禁野とされて、天皇、
貴族はここで遊猟し、若菜を摘んで遊楽をした、とある。
嵯峨天皇の嵯峨院(現大覚寺)、後嵯峨上皇の亀山殿(現天竜寺)、
檀林皇后の檀林寺などをはじめ、兼明親王の雄蔵殿(おぐらどの)や
歌人藤原定家の山荘など、貴神の邸館や大寺が営まれ、文学の舞台
ともなった。        
         (以上、平凡社刊「京都市の地名」より引用)

○みし世にもかはりて

西行が在俗時代に実際に見た頃と違って・・・というような解釈
で良いと思います。しかし書物なりで読み、人からも聞いたりして
西行出生より前の嵯峨野が賑わっていた頃までもを指しているとも
受け取れます。

○あらぬやうになりて

荒廃しているということ。以前と比較して廃れていること。

○さがのみかり

嵯峨野における春の桜狩、秋の紅葉狩を言います。
しかし西行が出生してから出家するまでの間に皇室の御幸は記録
がないようですし、公の行事は無かったものでしょう。

(04番歌の解釈)

「この里が、昔桜狩や紅葉狩の行われた嵯峨野の跡であろうか。
今はすっかり荒れはて、昔の栄華の跡も色褪せ変わってしまった
ことだ。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

************************************************************ 

       ◆ 水茎・水ぐき ◆

【水茎・水ぐき】

「筆や筆跡」のことです。
「水茎」という言葉が、なぜ筆や筆跡を表す言葉として使われ
だしたか、それはどんな理由からなのかは不明のようです。
万葉集では「水にひたる城」という意味で使われていました。
「筆あるいは筆跡」を表す言葉としては平安時代から使われ
だしたようです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 はかなくなりて年へにける人の文を、物の中より
見出でて、むすめに侍りける人のもとへ見せに
つかはすとて

01 涙をやしのばん人は流すべきあはれにみゆる水ぐきの跡
         (岩波文庫山家集206P哀傷歌・新潮804番・
                西行上人集・山家心中集)

○はかなくなりて

死亡したことを言います。

○年へにける人の文

亡くなってから年数が経っている人のこと。その人から生前に手紙を
頂いていたことを言います。

○むすめに侍りける人

(むすめ)とは誰のことか、個人名の記述がなく不明です。

○あはれにみゆる

亡くなった人の生前を偲んで、感傷に浸ることを言います。

(01番歌の解釈)

「亡き父上を偲んでおいでのあなたは、さぞ涙を流されることで
しょう。しみじみ感慨を催される生前の筆跡をご覧になって。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
           
      新院さぬきにおはしましけるに、便につけて
      女房のもとより

02  水茎のかき流すべきかたぞなき心のうちは汲みて知らなむ
 (讃岐の院の女房歌)(岩波文庫山家集184P雑歌・新潮1136番)
 
03  程とほみ通ふ心のゆくばかり猶かきながせ水ぐきのあと
       (西行歌)(岩波文庫山家集184P雑歌・新潮1137番)

○新院

1141年に退位してから1156年の保元の乱後に讃岐に配流される
までの崇徳上皇の呼称です。
山家集にある「一院」は鳥羽上皇を言い、「新院」は崇徳上皇、
「院」は後白河上皇を指します。

○さぬき

旧国名で、現在の香川県のこと。
瀬戸内海に臨み、県庁所在地は高松市。
弘法大師空海の生地や、崇徳院の墓所があります。

○女房

1156年の保元の乱に敗れて讃岐に配流となった崇徳院に付き添って
讃岐に渡った女性だと思われます。
名前までは分かっていないようですが、崇徳院の長子である重仁
親王の母である兵衛佐局とみていいのではないかと思います。

讃岐の院の女房歌は実際には崇徳院の歌だと言われています。
こういう体裁を採らないままでは、西行との和歌の贈答でさえも
差し障りがあったものでしょう。それだけの監視の中での配流生活
であったものでしょう。

○かたぞなき

どうして良いかわからない、どうすべきか、その方法がないと
いうこと。

○程とほみ 

場所と場所の距離的な遠さを表します。 

○猶かきながせ

たくさん手紙を書いて下さいという西行の願望。
     
(02番歌の解釈)

「手紙をどのようにしたためたらよいか分かりません。
私の心の中はどうぞお察し下さい。」
  (讃岐の院の女房歌)(新潮日本古典集成山家集から抜粋)

(03番歌の解釈)

「讃岐とは遠く隔たっているので、通うこともできず、心が
通うだけだから、せめて気のすむまで心の中を手紙にしたためて
下さい。」
       (西行歌)(新潮日本古典集成山家集から抜粋)

************************************************************ 

       ◆ 水こひ鳥 ◆

【水こひ鳥】

カワセミ科の「アカショウビン」の古称です。東南アジア周辺から
夏に来日する渡り鳥。全体的に赤褐色をした鳥で、「火の鳥」とも
呼ばれています。
主に森林に生息し、サワガニ、トカゲ、カエル、昆虫類などを捕食
します。水こひ鳥の歌はこの1首のみです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

01 山ざとは谷のかけひのたえだえに水こひ鳥の聲きこゆなり 
           (岩波文庫山家集167P雑歌・新潮957番・
             西行上人集・山家心中集・夫木抄)

○かけひ

水を通すための設備です。当時は生活用水も竹などを半分割して、
それを用いて泉や池から水を導いていたものでしょう。
この歌では山の谷あいに設置しているということ。生活の場は、
里とはあっても集落ではなくて、おそらくは山の中の庵でしょう。

○たえだえ

絶え絶えのこと。途切れ途切れのこと。
山里の谷に設置している筧から流れてくる水が乏しくて、途切れ
途切れであることと、水こひ鳥の鳴き声が途切れ途切れに聞こえて
来ることとを掛け合わせています。

(03番歌の解釈)

「山里では谷の筧に絶え絶えに水が通うように、水乞鳥らしい声が
絶え絶えに聞こえてくるよ。」
             (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

私見ですが、筧からの水の乏しさに困っている心情が、水乞鳥と
いう名詞を導きだしています。困っている人の心情に、水乞鳥の
絶え絶えの鳴き声が共鳴し、重なりあって響いてきます。
水乞鳥はまた水恋鳥でもあります。

************************************************************

       ◆ みすり ◆

【みすり】

名詞とは思いますが、意味不明な言葉です。
デジタル大辞泉では
「衣に花・葉などで色を染めつけること。」とあります。でもそれ
では意味が通じません。

この歌は松屋本山家集にしかありません。和歌文学大系21によれば、
以下の二首の間に「ふなそこに…」歌は書き込まれているとのこと
です。従って、琵琶湖の水運に関係する歌だと考察されています。

 おぼつかないぶきおろしの風さきにあさづま舟はあひやしぬらむ
         (岩波文庫山家集169P雑歌・新潮1005番・
           西行上人集・山家心中集・夫木抄)

 くれ舟よあさづまわたり今朝なせそ伊吹のたけに雪しまくなり
     (岩波文庫山家集169P雑歌・新潮1006番・夫木抄)

「みすり」については「水もれの意か」としています。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

01 ふなそこにみすりしぬへし心せよのみのさせるをたのまさらなむ
                    (松屋本山家集)


続き>

前号
バックナンバー一覧

s登録する
解除する

利用規約
ヘルプ
メルマガ検索
マイページトップ
まぐまぐ!トップ