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西行辞典

件名: 西行辞典 第365号(180224)
2018/02/24
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      ◆◆◆◆  西行辞典  ◆◆◆◆
                        
                  vol・365(不定期発行)
                   2018年02月24日号

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          今号のことば    

         1 みまかり・身まかり 
         2 みまくさ
  3 見ましや
         4 見まほしくて・見せまほしくて 

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         ◆ みまかり・身まかり ◆

【みまかり・身まかり】

「身」に「まかり」の接続した言葉で、死亡したという意味。
この世から去ること。

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     浅からず契りありける人の、みまかりにける跡の、
     をとこ心のいろかはりて、昔にも遠ざかるやうに
     聞えけり。
     古郷にまかりたりけるに、庭の霜を見て

01 をりにあへば人も心ぞかはりけるかるるは庭のむぐらのみかは
             (岩波文庫山家集240P聞書集107番)

○浅からず契りありける人

詞書から西行自身のことではなくて、西行の知人である「をとこ」に
ついての聞き知った話を歌にしていることがわかります。
(契りありける人)が亡くなった後の男の心情についての歌です。
ですから(契りありける人)は(をとこ)の妻とも考えられます。とも
あれ、(をとこ)と相応の関係のあった女性だと解釈できます。

○をとこ心のいろかはりて

深い関係にあった女性が死亡してから、亡くなった女性やその家に
対しての男の気持ちが薄れてきたということ。気持が冷めてきたこと。
(心の色)は心のありよう、心情のこと。

○古郷にまかりたり

(古郷)は女性が長年住んでいた家のこと。(まかりたり)は西行が
実際にそこに行ってみたということ。
偶然に行ったのか、意図して行ったのか不明ですが、亡くなった
女性と西行は面識はあったものと思わせます。

○をりにあへば

できごとのあったその時に…ということ。「あへば」は出合うこと。

○のみかは

(かは)は「……だろうか?いや、そうではない」という反語です。
問いかけの形で(むぐらのみ)と言い、その反語として「むぐらのみ
ではない」と逆のことを示す用法です。

○むぐら

クワ科(ムグラ科とも)のカナムグラ、アカネ科のヤエムグラの
総称です。歌では荒れ果てて寂しい光景の例えとして使われます。
ただし、霜の降りる季節に枯れる「八重葎」はふさわしくはなく、
クワ科のカナムグラの可能性があります。

(01番歌の解釈)

「その時になれば人も心が変わるのだなぁ、枯れるのは庭の葎だけ
ではなく、人の心も離れてしまうのだ。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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     院の二位の局身まかりける跡に、十の歌、
     人々よみけるに

02 流れゆく水に玉なすうたかたのあはれあだなる此世なりけり
         (岩波文庫山家集208P哀傷歌・新潮817番・
              西行上人集追而加書・玉葉集) 

○院の二位

紀伊守藤原兼永の娘の朝子のこと。父親の官職名で「紀伊」と
呼ばれます。
藤原通憲(入道信西)の後妻。藤原成範、脩範の母。待賢門院の
女房の紀伊の局のこと。
後白河院の乳母。従ニ位になり、紀伊ニ位、院の二位とも呼ばれ
ます。1166年1月に没して、船岡山に葬られました。その時に西行は
追悼の歌を10首残しています。残りの歌9首は割愛します。

○身まかりける跡

身罷ることであり、亡くなった跡、葬送をした跡ということ。
「跡」とは、船岡山を指しているものと思います。

○うたかた

水に浮かぶ泡のこと。
消えやすく、はかない物事の例えとして使われます。

○あはれあだなる

誰の生であれ、人間の一生ははかなく、はかなさを約束された生を
生きることを言います。

(02番歌の解釈)

「流れて行く水に玉となって浮ぶ泡がすぐ消えてしまうように、
あわれではかないこの世であることだ。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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          ◆ みまくさ ◆

【みまくさ】

馬の飼料で「秣=まぐさ」のこと。馬が食べる草です。「み」は
接頭語。稲の美称とも言われます。
また、馬の飼い主を敬って言う場合もあるようです。

当時は朝廷の馬を飼育する「御牧」が京都市伏見区淀美豆町にも
ありました。「御牧」には当然に「みまくさ」が繁茂していた
はずです。

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01 みまくさに原の小薄しがふとてふしどあせぬとしか思ふらむ
          (岩波文庫山家集52P夏歌・新潮236番・
        西行上人集・山家心中集・万代集・夫木抄)

○原の小薄

(薄・すすき)はイネ科の多年草。山野に自生し、高さは1〜2メートル。
葉は線形。秋の七草の一つです。
「小薄」の「小」は接頭語で、(小さい・若い)などの意味を持ちます。

秋になると茎の先に20センチから30センチ程度の花穂をつけます。
この穂が出た状態を「花薄」や「尾花」と言います。
薄は、その穂が風に盛んに揺れなびいている様子から人を招いて
いるように見立てて詠まれた歌が多くあります。

○しがふ

草などを刈り束ねて、その端を結びあわせること。

○ふしどあせぬ

「あせぬ」は褪せること。「褪せる」には(浅くなる)という
意味があります。
鹿の寝床とは決まった所があるのかどうかわかりませんが、
いつも寝ている寝床が薄を刈ったために荒れて浅くなっている…と
いうことです。
鹿は薄の原で寝るものか疑問ですが、あえて薄のなかで寝ると想像
しての歌なのでしょう。
ところが02番歌では鹿の寝床を見たとありますから、それは実際の
体験に基づく歌であるとも思わせます。

○しか

鹿のこと。別称に「すがる」「かせぎ」があり、西行に「鹿」の
歌は34首あります。他に他人詠が2首あります。

(01番歌の解釈) 

「皇室の牧場の馬草にするために野原の薄を刈って束ねていると、
きっと鹿は寝床が荒らされて浅くなったと思うことだろう。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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02 みまくさにはら野のすすきかりにきて鹿のふしとをみおきつるかな
             (松屋本山家集・万代集・夫木抄)

○はら野

薄の生い茂っている原野。そこに馬の食用として薄を刈りに来た
ということ。

○鹿のふしと

(ふしと)は(臥所)と表記して、寝る場所のこと。

(02番歌の解釈) 

「みまくさにするために原野のすすきを刈りに来て、鹿の夜来て
臥す処をしっかりと見ておいたことだ。」
          (渡部保氏著「山家集全注解」から抜粋)

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尚、新潮古典集成山家集の下の歌の上句に「まくさ」がありますが、
この場合は「みまくさ」とは関係ありません。「裏吹きかへす」の
フレーズや、一首全体の感じから「葛」の歌と断定できます。
岩波文庫山家集では「まくず」となっています。

山里は そとものまくさ 葉をしげみ 裏吹きかへす 秋を待つかな
              (新潮日本古典集成山家集252番)

山里はそとものまくず葉をしげみうら吹きかへす秋を待つかな
      (岩波文庫山家集55P夏歌・新潮252番・西行上人集・
                 山家心中集・続後撰集)

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          ◆ 見ましやは ◆

【見ましやは】

「やは」は係助詞「や」に係助詞「は」が接続して一語となった言葉。
疑問の形で表現しながら、反語として機能しています。
「やは」は万葉集などによくある反語の終止形の「やも」が変化した
形です。平安時代には「やは」が多く使われています。
「見ましやは」で「見ることなどないだろう…」という意味になります。
山家集では「見ましやは」の用例が合計二首あります。
もう一首の03番歌にある「見ましや」も同等の「見られないだろう」
という意味。
              (大修館書店刊「古語林」参考)

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01 よしの山花をのどかに見ましやはうきがうれしき我が身なりけり
   (岩波文庫山家集34P春歌・新潮欠番・西行上人集・御裳濯集)

○よしの山

大和の国の歌枕。地名。奈良県吉野郡吉野町。
青根が峯を主峰とする広い範囲を指します。
西行も吉野山に庵を構えて住んでいたとみられていて、奥の千本
には西行庵があります。
ただし、現在の西行庵のある場所に実際に西行の住んでいた庵が
あったかどうかは不詳のようです。
岩波文庫山家集には「吉野山」の名詞のある歌は59首あります。

○うきがうれしき

「憂き」ことが嬉しいとする屈折した感情。
桜の季節になって、多くの花を見たいという期待に満ち溢れ、躍動
する西行の心理の状態がよく出ている歌だと思います。

(01番歌の解
続き>

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