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西行辞典

件名: 西行辞典 第372号(180603)
2018/06/03
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      ◆◆◆◆  西行辞典  ◆◆◆◆
                        
                  vol・372(不定期発行)
                   2018年06月03日号

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         今号のことば    
         
         1 御山・み山 04
         2 み山べ・み山辺 
         3 御幸・みゆき

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         ◆ 御山・み山 04 ◆

【御山・み山 04】

「御=み・お」は美称の接頭語です。言葉の調子を整える意味でも
「み・御」の文字が用いられます。

皇族や特定の人物の陵墓がある場合はその神聖さのためにも敬って
「御」の文字を前置します。また仏教関係の聖地ともいえる山も
同様に「御」をつける場合が多くあります。

山家集には「み山」と(み)がひらがな表記の場合の多くは深山の
意も表しています。もちろん例外もあります。
先号17番歌と今号の詞書に「深山」とある歌が4首あります。その内、
山家集類題本には20番歌の「深山紅葉」歌以外の3首があります。
その3首すべてが類題本にも「深山」と表記されています。いずれも
奥深い山のことです。

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     深山不知春といふことを

18 雪分けて外山が谷のうぐひすは麓の里に春や告ぐらむ
         (岩波文庫山家集22P春歌・新潮1065番)

○深山不知春

山の深い場所では春の訪れが遅いということ。里では春を感じさせ
ても、深山ではまだまだ冬だという季節感に拠った歌。

○外山

人里に近い山のこと。里山、端山のこと。奥山、深山の対語。
現在は「里山」という言葉がよく用いられます。「外山」の
言葉のある歌は18番歌以外には4首あります。   

01 雪わけて外山をいでしここちして卯の花しげき小野のほそみち
             (岩波文庫山家集236P聞書集70番) 

02 秋しのや外山の里や時雨るらむ生駒のたけに雲のかかれる
           (岩波文庫山家集90P冬歌・新潮欠番・
          宮河歌合・新古今集・玄玉集・西行物語)  

03 時鳥ふかき嶺より出でにけり外山のすそに聲のおちくる
           (岩波文庫山家集47P夏歌・新潮欠番・
       御裳濯河歌合・新古今集・御裳濯集・西行物語)  

04 松にはふまさきのかづらちりぬなり外山の秋は風すさぶらむ
           (岩波文庫山家集89P秋歌・新潮欠番・
        御裳濯河歌合・新古今集・御裳濯集・玄玉集)  

○うぐひす

鴬のこと。鴬は西行歌に31首あります。
ヒタキ科の小鳥。スズメよりやや小さく、翼長16センチメートル。
雌雄同色。山地の疎林を好み、冬は低地に下りる。昆虫や果実を
食べる。東アジアにのみ分布し日本全土で繁殖。
春鳥、春告鳥、歌詠鳥、匂鳥、人来鳥、百千鳥、花見鳥、黄鳥
など異名が多い。
            (講談社「日本語大辞典」から抜粋)

ホトトギスがウグイスの巣に卵を産みつけてウグイスに育て
させる「託卵」でも知られています。

○春や告ぐらむ

鴬は「春告げ鳥」とも言われています。

(18番歌の解釈)

「外山の谷に住む鶯は、どうせ雪を分けて谷を出るのなら、と
麓の里を選んで春を告げているのだろう。山深い私の方には
来てくれそうにない。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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     深山水鷄

19 杣人の暮にやどかる心地していほりをたたく水鷄なりけり
          (岩波文庫山家集50P夏歌・新潮232番)

○杣人

山を生活の場とする人々のこと。樵や木地師などを言います。

○暮にやどかる

(暮に)は当然に年の暮れではなくて、一日の暮れのこと。夕暮れ。

○水鶏

(くいな)と読みます。戸を叩くような鳴き声を出します。
水辺の草むらに住むクイナ科の鳥の総称です。
体色は黄褐色で30センチほど。ミミズや昆虫などを捕食します。
北海道で繁殖し、冬は本州以南に渡ってくる渡り鳥です。

和歌に詠われている水鶏は、クイナ科の一種のヒクイナであり、
20センチ強。このヒクイナは東南アジアやインドなどに分布して
おり、日本には夏に飛来して繁殖します。
  
(19番歌の解釈)

「樵夫が夕暮れに宿を借りに来たのかと思って、一瞬期待して
しまったら、庵の戸を叩くような音で水鶏が鳴いたのだった。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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     深山紅葉

20 名におひて紅葉の色の深き山を心にそむる秋にもあるかな
         (岩波文庫山家集276P補遺・西行上人集)

○深山

この歌は西行上人集にのみあります。奈良の大峰修行関連の作品群
の中の1首です。よって大峰にある「深仙」という特定の山を指して
いると解釈できます。山名の「深仙」は「深山」と掛けています。

○名におひて

「深仙」という山名に恥じることはないという意味。紅葉の色の
濃さが「深仙」の名にふさわしいということ。

(20番歌の解釈)

「深山(深仙)という名を持っているだけあって紅葉の色が深い
山をわが心に深くしみこませる秋だなあ。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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       ◆ み山べ・み山辺 ◆

【み山べ・み山辺】

(み山べ)の「み」は山の美称と解釈できます。
(み山ベ)で、深い山の始まる場所、その麓、山腹あたりも含めての
言葉です。「深山=みやま」は外山・端山などの対義語ですが、
(み山べ)の場合は深山や外山と区別して考えることもないでしょう。

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01 かねてより梢の色を思ふかな時雨はじむるみ山べの里
     (岩波文庫山家集62P秋歌・新潮301番・西行上人集)

○かねてより

秋になる前から樹々の紅葉した情景を思い続けていたということ。
紅葉に対しての渇望の気持ちを言います。

○時雨はじむる

秋時雨のこと。時雨が紅葉の色を深めると言われています。

(01番歌の解釈)

「時雨はじめたみ山辺の里では、時雨の度ごとに紅葉してゆく
梢の色を、今から思いやるよ。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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02 立ちこむる霧の下にも埋もれて心はれせぬみ山べの里
           (岩波文庫山家集69P秋歌・新潮427番)

○霧の下にも埋もれて

山を包み込むような秋霧に山辺の里の草庵が埋もれた状況。

(下にも)の「も」は複数のものに埋もれたことを言いますが、
この歌単独では他の何に埋もれているのか特定できません。

○心はれせぬ

鬱うつとして心が晴れないこと。「はれ」は霧の縁語。

(02番歌の解釈)

「世に埋もれて山へ逃れたのに、この山辺の里の山家もまた、
一面にたちこめる霧の下に埋もれて、心は晴れないことである。
霧が晴れないごとく。」

            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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03 染めてけりもみぢの色のくれなゐをしぐると見えしみ山べの里
 (岩波文庫山家集88P秋歌・新潮474番・西行上人集・山家心中集)

○染めてけり

過去の助動詞「けり」は、個人的な願望などを表す助動詞ではなくて、
「染めてしまった」という多少詠嘆を含んだ言葉です。ですから、
未来のことではありません。たった今の現在から過去に起きたでき
ごとを言います。
この「けり」は「けりがついた」などの用法で、現在でも用いられて
います。

(03番歌の解釈)

「時雨ていると見えたみ山辺の里では、木々の葉はすっかり
紅に染められてしまったことだ。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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04 まだきより身にしむ風のけしきかな秋さきだつるみ山ベの里
           (岩波文庫山家集54P春歌・新潮250番)

○まだき

副詞。早くも、もう…という意味。まだその気持ちや、時期に到達
していないのに…早くということ。

○風のけしき

強弱の吹き具合や寒暖などの風の状況のこと。

○秋さきだつる

まだ秋ではないのに吹いている風の中に、確かに秋を感じている
状況を言います。
五体の感覚が、自然の中で研ぎ澄まされているのでしょう。

(04番歌の解釈)

「風が吹くとまだ夏なのに秋風のように身に染みる。私の山家は
山深いので秋を先取りしているのだ。」
                (和歌文学大系21から抜粋) 

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05 神無月木葉の落つるたびごとに心うかるるみ山べの里
           (岩波文庫山家集92P冬歌・新潮欠番)

○神無月

陰暦10月の別称。現在の11月頃には神無月になります。

○心うかるる

落葉が残念で紅葉を見続ける楽しみもなくなることだから、心は
憂く
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